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今月のことば

2017年4月号

柔道を通しての人との出会い

藤木崇博

 以前巻頭言を書かせて頂いた。あれから6年の歳月が経つ。38年の教員生活を終え、退職した年であった。最後の4年間は、全国高体連柔道専門部長を務めさせて頂いた。柔道で人生を生かされてきた私にとっては、感謝の気持ちで一杯であった。
 退職と同時に兵庫県柔道連盟会長に就任し、兵庫県を預かることになった。当時全柔連会長であった上村春樹会長に「全国で一番若い会長だな」と言われたが、「しかし、私の方が若い」とそれとなく自分の若さを強調されていた。ちなみに館長と私は同期である。

私が全国部長に就任した時期は、春の高校選手権大会が個人戦を廃止し日本武道館での1日だけの開催に縮小されていた頃であった。私は昔年のように個人戦を含む2日開催、しかも、1日目東京武道館、2日目日本武道館という変則的な開催ではなく、両日とも日本武道館で開催したいと上村館長(当時全柔連専務理事)に相談した。柔道関係者の上層部全員が「藤木さん、絶対無理だ」と言われる中で、上村館長だけが「やってみないと分からん、ダメ元でやれ」と励ましてくれ、話を進めてくれた。結果、日本武道館の三藤芳生事務局長が意気に感じてくれて日本武道館での2日間開催が実現した。
 そして、テレビ放映も上村館長が「藤木、テレビは良いのか?」と声をかけてくれた。「いや、テレビ放送を是非、頼む」とお願いすると「では、どの放送局が良いんだ」との問い。「NHKを頼む」と話をした。「よし、NHKへ行ってこい。電話しておく。ただし、どうなるかは分からんぞ」とのことであったが、NHK(BS1)の放映が実現した。
 日本柔道の将来を担う高校生にとって、この2つのことはどれだけ励みになったか、筆舌に尽しがたい。感謝の一言である。
 平成23(2011)年3月11日、大地震と大津波が東日本を襲った。東日本大震災である。この年の3月で私は退職であり、全国高体連柔道部長も退任であった。
 3月19日・20日の開催予定であった全国高等学校柔道選手権大会をどうするのか決断を迫られたが、柔道専門部事務局には「とにかく3日間は動くな、情報収集に当たれ」と指示を出した。それは、私自身が平成7(1995)年に起きた阪神淡路大震災の経験があり、正しい情報が見えてきたのが3日後だったからである。東京の事務局は大変だったと思う。その間に全国から問い合わせが殺到し、冷や汗ものだったと聞いたが、3日間、事務局は耐えてくれた。
 私は4日目に東京に行き、全柔連と協議して中止を決定した。全国高校柔道大会がこの様なことから中止になり、私は、全国大会を中止した唯一の部長になった。今でもこの時の悔しさは鮮明に思い出される。
 退任の年度であったので、3月末に全国委員会を非常招集し、部長を保坂慶蔵氏に引き継ぎ、部長の任を終えた。同年4月に兵庫県柔道連盟会長に就任し、現在に至る。

 さて、私は会長就任3期6年を終え、4期目に入った。この6年間は日本柔道界にとって激動の時期であった。一地方の会長であった私も、いや、日本の柔道人全てが、不安と焦燥に駆られ、柔道界の将来には暗雲が垂れこめていた。あれから数年を経てようやく光が見えてきた思いがある。ロンドンオリンピックから4年、その間、柔道界の様々な取り組みが、少しずつ芽を吹いてきた感がある。刷新された全柔連を率いる宗岡正二会長、山下泰裕副会長、近石康宏専務理事のご苦労を思うとき、尋常な精神力では成し得なかったと推察する。また、強化を担当した新指導陣もロンドンオリンピックの屈辱の敗北から、リオデジャネイロオリンピックでは、見事に復活をなし遂げてくれた。やっと明るい希望が見えてきた。この勢いを是非、来る2020年東京オリンピックにつなげ、本当の意味の復活を遂げなければならない。

 人との出会いの不思議を思うとき、私自身にも人生の筋目に将来を決めるような出会いがあった。例えば同期生には、オリンピック金メダリスト2名、世界選手権大会金メダリスト4名、全日本選手権大会優勝者2名等々、猛者がゴロゴロしていた。その人たちとの出会い、そして同じ試合場で相まみえた経験。現役時代は睨み合いこそすれ、話などしたこともなく、言葉を交わすなどとても出来ない雰囲気だったが、現役を離れると、百年の知己のように話が出来る。これが柔道の魅力のひとつであろう。
 柔道への道をつけてくださった恩師の先生方、そして、同期生や全柔連で一緒に仕事をさせて頂いている各界トップレベルの皆様と話が出来るのも、柔道のお陰である。

 日本柔道の将来、これは組織的なことになるが、講道館は世界の柔道を教導し、また段位の発行元でもある。世界の柔道家たちは、講道館の段位に憧れと敬意を抱いている。また、全日本柔道連盟は日本を代表する競技団体だ。どちらも公益財団法人である。この2つの組織が、お互いの利点を活かし、そして教育界で言うホウレンソウ「報告・連絡・相談」を密にすることが、日本の柔道、ひいては世界の柔道の発展に寄与することになると思うのだが、柔道人の皆さんのお考えは如何に・・・。
(兵庫県柔道連盟会長)

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