HOME > 今月のことば > 2008年08月

今月のことば

2008年08月

明日の柔道

森次 定義

 今年は四年に一度のオリンピックイヤーであります。小生の拙い文章が「柔道」に掲載される頃には、今一層オリンピックが盛り上がりを見せている頃でありましょう。柔道日本選手団のご活躍を祈念し、一個でも多い金メダルを貪欲に獲得して頂きたいと思っています。

 ところで、最近の世界柔道の潮流を、国際柔道連盟の議決や、選挙などから見ますと、どうも日本柔道の目指している方向と、異なった方に動いているような気がしてなりません。
 アジア柔道連盟の会長選挙や、国際柔道連盟教育コーチング理事選挙を見ても、そのポストが政治的に利用され、それぞれの国が持っている一票が、柔道の発展を願って投票されていない様に思われます。両選挙とも、日本の立候補者は選考されず、それにより、日本が、理事会での投票権や発言権を失ってしまいました。
 理事会で投票や発言が出来ないことは、世界柔道の将来的方向や現在の動きに対し、日本の武道としての柔道という観点から、方向についての意見や、早急すぎる改革に対して助言などが出来にくくなってしまったことを意味します。
 この様な状況のなかで幸いなことは、全日本柔道連盟の上村春樹専務理事が国際柔道連盟の会長より理事に指名されたことであります。投票権は無いと聞いていますが、どうか機会有る毎に日本の意見を世界にアピールするパイプ役として頑張って頂きたいと思います。

 近年、国際柔道連盟では、審判規定の改正や、組織改革などが急ピッチで行われて来ました。しかし、それらの改革の目的や意義が充分検証されないまま、会長や理事が替わるたびに新たな改革案が提案され実行されていくような気がしてなりません。
 ヨーロッパをはじめ、様々な国の柔道を愛好する人々と話をしますと、柔道の持っている、道としての精神性の高さや、武道に発生起点をおく、一般スポーツ種目とは異なった特性が強調され、力強さを感じました。しかし、武道という大きな概念レベルでは同一な考えにも拘らず、細かい部分ではヨーロッパの武士道や騎士道と、日本の武士道とは異なり、日本で武道が発生した社会的状況や、そこに求められた精神性などは充分理解されていないことも痛感いたします。
 勿論、生まれた国や、それぞれの生活環境の異なるなかで成長された人に容易に理解されないことは当然のことでありますが、少しでも解っていただくためには、時間とそれなりの手立てが必要であることはいうまでもありません。
 現在の世界柔道の潮流を少しでも変えていくためには、少々時間を要しても、今以上に日本柔道を世界へ説き、また再認識して頂くための方策を実施していかなければなりません。そのための特効的な方策はなかなか見つかりませんが、おおよそ三つの私案を披露させて頂きます。

 第一は、「正しい柔道」の励行であります。国内で柔道を修行する者は当然でありますが、特に海外に派遣された日本選手にも礼節を重んじた「正しい柔道」を行い世界の見本となってもらいたいと思います。正しい柔道とは、身だしなみや試合における態度、また組み方や技の切れ味といった技術面に関したことも含まれています。さらに、試合では勝たなければなりません。選手一人ひとりが、日本を代表した外交官である意識を持ち、「勝つこと」と「強いこと」が、相手に色々なことを理解してもらう絶対的な方法であることを忘れてはなりません。日本を代表しての誇りと自覚を持って欲しいと思います。大陸と接していない日本では、海外の選手と交流することが経済的にも時間的にも極めて難しく、ヨーロッパの選手に比べて、他国の選手との試合経験を積むことが出来ません。選手強化の面で困難性を抱えていることは充分理解できますが、選手と強化部が一丸となって叡智を絞り、なお一層の努力をお願いしたいと思います。

 第二は、柔道指導者の意識改革であります。
どちらかといえば、国内外の、最近の指導は競技面が強調さ、嘉納師範の説かれた、勝負法、体育法と修身法のバランスのとれた指導がされていないように思われます。国内の指導については当然でありますが、特に、海外で指導にあたられる指導者におかれては、講道館と協力の上、競技面は当然なことながら、柔道の歴史や教育的側面ならびに柔道修行の精神的側面の両面を兼ねそなえた指導が必要であるように思われます。

 第三は、全日本柔道連盟ならびに講道館による、長期的計画に基づいた、日本の伝統文化である柔道の普及発展のための施策を、世界に推し進めていただくことであります。その内容は柔道の本質的部分や文化的側面を大切に扱っていかなければなりません。日本で開催される、国際大会の回数を出来るだけ増やし、その時期に合わせて、柔道セミナーを開催することや、現在よりも多くの柔道使節団の海外派遣なども一案であると思います。また、柔道ルネッサンスの更なる推進や、各種大会における「一本大賞」の授与等は素晴らしい企画であり、更に拡大していくべきであると思います。
現在の世界柔道の抱える問題点は、柔道が世界的に普及発展したことにより、新たに生じた課題と理解することが出来ます。我々が直面している課題を解決するための有効な手段は簡単には見つかりませんが、柔道を愛好する者がそれぞれの立場で柔道の特性を大事にして、国際的視点にも立ち、柔道ルネッサンスを考え、行動を継続することによって、ゆっくりではありますが、確実に少しずつ流れを変えることが出来ると確信いたします。

(愛知県柔道連盟会長)

最新記事