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今月のことば

2013年02月

とこしえの普及と発展

関根 忍

 「歳月人を待たず」「光陰矢の如し」とか申します。顧みますと、少年時代、柔道に魅(ひ)かれて入門し、親に買って貰った真新しい柔道衣の袖に手を通した時の興奮を昨日のように憶えています。あの日から、早60年の月日が流れました。
 いろいろなことがありました。数々の思い出が、走馬灯のように脳裏をかすめます。選手時代は稽古に明け暮れ、全日本選手権大会やオリンピック大会で優勝でき、恩師や友人、親が喜んでくれたこと、負けて悔しかった時、慰め励ましてくれた人々、指導的立場になってからは、教え子が好成績を挙げてくれたこと、海外へ指導に行ったこと、そして一般の人々の指導を通じて、改めて知った柔道の良さ等々。
 そういった体験を経て今日の自分が在ることを思えば、やはり、この歳になって思うことは、柔道界に対して如何にご恩返しをするか、ということであります。今回は甚だ僭越とは思いますが、誌面をお借りして日頃の愚考を申し述べたいと思います。

普及が最も大切
 次代を担う青少年への普及なくして、柔道の将来はありません。我々は先ず何よりもこの点において、自覚と認識を持っていなくてはならないと思います。そして、入門した少年少女たちには、長く修行を続けて貰えるよう指導しなくてはなりません。そのためにはどうしたら良いのでしょうか。
 柔道人口の底辺拡大は「町道場」からと考えます。昔は地域に密着した町道場が数多くあり、老若男女が汗を流し、まさに柔道を通した教育の場でありました。学業に励み、仕事に従事する多くの柔道愛好者が、気軽に、安全に利用できる柔道の練習施設をどうするか、という研究も必要ではないでしょうか。
 中高年の人々を柔道から離れさせないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。その方たちにふさわしい練習内容なども、本当はよく知られていないのではないでしょうか。小学生から社会人まで多くの人が生涯に亘って、楽しく、安全に取り組める練習内容を示すことが必要だと考えます。柔道は「人の道」ですから、終わりはない筈です。
 学生時代、あれだけ情熱を傾け、青春をぶつけた柔道も、就職後は練習をしなくなる人が少なくありません。社会人になっても、是非続けて貰いたいと思います。しかし、職場に柔道部がないとか近くに道場がないという問題があるのも事実です。

魅力の発信も必要
 少年少女のために、柔道はどんな魅力があるのでしょうか。こういう議論が案外おろそかにされたままになっていると感じています。
 我々指導者だけでなく、保護者とも膝を交えて考えて行く必要があると思います。学校柔道に目を向けてみますと、授業と部活動は別だと一般的に言われますが、取り組む内容に違いこそあれ、柔道の魅力を伝える点に違いは無いと思います。ネット社会に生きる子供たちに、柔道の良さを伝える我々大人たちの一層の努力が求められていると思います。
 「一本を取る」 柔道技術の魅力は誰もが憧れるものでしょう。技術を支えるものは体力です。体力なくして技術は成り立ちません。
 昨今の子どもたちを観ていて、体力不足だと感じるのは私だけでしょうか。体力を付け、技術を磨く両方が肝要だと思います。またそれと同じくらい重要なことがあります。それは受身の練習です。強くなると、これを怠りがちになります。体力と技術を向上させ、受身の練習をずっと続けることで、安全性も向上して行くものと信じています。
 
強さと良いマナーを目指して欲しい
 昨年行われたロンドンオリンピックにおける我が国の成績は、多くの柔道ファンの期待に反するものだったと思います。しかし、冷静に世界の水準の高さを分析して見れば、金メダルも含めて男女計7個のメダルを獲得した成績は、必ずしも責められるものではないと思います。だからと言って、勿論、納得できるものではなかったことも否めないでしょう。金メダルを目指し己を尽す。これも我が国の柔道の「道」だと信じてやみません。関係各位の益々のご尽力を心から期待しております。
 言うは易く行うは難しで、マナーの問題は人に言うことは簡単ですが、実行の難しさは誰もが知っていることだと思います。後進を導くことは指導者の務めだと思いますが、肝心なことは指導者自らが良いマナーを態度で示して行くことだと考えます。私も率先垂範を旨として、努力して参る所存です。
 講道館柔道のとこしえの普及と発展を心からお祈りしております。

(講道館評議員 東京都柔道連盟副会長・同専務理事)

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