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今月のことば

2023年4月

富山県柔道連盟設立70周年を迎えて

平田裕康


 富山県柔道連盟は、昭和27年3月27日に設立され、昨年70周年を迎えました。本連盟では創立50周年から10年毎に周年事業を実施し、記念誌を発刊しています。70周年記念事業では、物故者追悼式、記念式典、祝賀会と本県出身のオリンピックメダリスト田知本遥・向翔一郎の両氏を講師に招いて少年を対象とした柔道セミナーを開催しました。そして、令和5年度には10年間の出来事、大会記録や役員などの記録を記した記念誌を発刊する予定です。
 70周年を迎え、この10年間を振りかえることで様々な現状と課題が見えてきました。本県出身の田知本愛・遥姉妹や向翔一郎氏らがオリンピック、全日本選手権で活躍しましたが、県内に目を向けると一般から少年まで全般的に競技レベルが低下しており、全国大会やブロック大会での入賞が少なくなってきています。一般男子では、警察官や刑務官が強化の中心となってきましたが、年々練習時間の確保が難しくなってきており、以前のように強化ができない状態です。また、本県で大学柔道部があるのは国立の富山大学だけとなり、大学の柔道部に強化を期待できない現状でもあります。このようなことから、選手強化に関しては一般男女ともに県外在籍の選手に頼らざるを得ません。
 一番深刻なのは柔道人口の減少が止まらないことです。高校、中学では毎年のように柔道部が廃部となっています。高校の女子部はここ数年で急激に減り、大会に出てくるのは2?3校にまで減少し、なかなか強化ができる状態ではなくなってきています。このような現状から令和3年に「柔道人口拡大のための調査研究」を行いました。今回調査の平成元年から令和4年までの34年間の登録者数の推移では、最も登録者数が多かった時期と令和4年の登録者数を比べると、小学生は約33%(1140人から380人)、中学生は約45%(927人から419人)、高校生は約24%(897人から213人)、大学生は約16%(83人から13人)、社会人は約33%(869人から286人)にまで減少しています。
 平成9年度以降の「運動部活動の加入率(県教委)」では、平成15年度で2.8%であったものが、令和2年度には1.4%と半減しています。また、「中高の柔道部員数の推移・多種目との比較(県教委)」では、少子化の中でもサッカーや陸上競技は部員数を増加させていますが、柔道・野球・剣道は減少傾向にあります。中学校から柔道を始める生徒も多いことから、益々柔道人口の減少が予想されます。
 中学校の休日の部活動が、令和5年から3年間を目途に地域に移行するという提言がスポーツ庁から出されました。これまで中学、高校の柔道は学校の課外活動が中心であり、中学校から初めて柔道をする生徒も多くいました。柔道人口や指導者が減少傾向にある今、このような提言が出され市町村毎に独自の取り組みが行われ、現場は大変混乱しています。この動きによって柔道人口減少に拍車がかることになるのではないかと懸念されます。
 令和4年に「柔道人口拡大のための検討会」を開催し、現状と課題や改善策について検討しました。検討会では、柔道人口の減少は単に少子化によるものだけではなく、体罰・暴力、重大事故、練習環境、指導者の資質、柔道の人気等、様々な課題が関連しあっているとの共通認識のもと検討しました。簡単には結論は出ませんが、参加者からは、立場の違う者同士の話し合いは有意義なものであり、まずできることから行動に移していくことが大切であるとの意見で一致しました。柔道人口拡大には柔道のマイナスイメージを変えていくことが鍵となり、柔道の楽しさや魅力の発信をしながら指導者としてできることを考えていくことが大切であるとの意見も出ました。
 柔道人口拡大の調査研究から始まった検討会ですが、令和5年度は実際にできることから取り組んでいくことになり、県柔連としても積極的な情報発信を行っていくこととしました。本県では14年前にホームページを立ち上げましたが、制作した当初の目的は会員向けの情報発信で、大会日程や要項、申し込み等、会員の利便性の向上でした。検討会でも他県と比べデザインが古い、様々な活動が掲載されていない等の意見もあり、ホームページの更新を含め、SNSでの情報発信に取り組むことにしました。
 終わりに、富山県では現在新富山武道館建設の計画が進められています。多くの大会、講習会などを開催している富山・高岡両武道館は築50年が過ぎて老朽化が進んでいます。平成26年2月1日に武道9団体からなる富山県武道協議会を設立し、新武道館建設を富山県に要望してきました。令和3年3月に基本設計が公表され、令和9年開館を予定していましたが、昨今の建設資材価格高騰から開館時期が不透明な状態となっています。富山・高岡武道館は観客席が少なくこれまでも観戦者には大変不自由をかけてきました。特に令和2年からは、コロナ禍の影響で無観客や入場制限の大会が続き、今もコロナ前のようにすべての観客を入れての大会が再開できない状態が続いています。コロナウイルス感染症や中学校部活動の地域移行など柔道人口減少の要因が懸念される出来事が続く中、新武道館建設は大変明るい話題であります。新武道館開館には、本県柔道の拠点施設として、これからの強化や普及を進める上で期待するところが大きく、新武道館が柔道人口拡大の一役を担うよう一刻も早い開館を望むものであります。
                      (富山県柔道連盟会長)

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