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今月のことば

2018年12月号

我が柔道人生

中谷雄英


はじめに
 思いがけず今年の春、広島県柔道連盟会長の職に就いた。会長になると様々な場面で苦手な挨拶をしなければならず、頑なに断り続けてきたが逃げ切れなくなったのが実情だ。もう少し自分に器用さがあれば、早い時期に何度か要請を受けたときに先頭に立っていたと思う。約30年理事長として4人の会長を支えて来た。年貢の納め時とはよく言ったものである。
 会長就任早々、広島県で全国中学校柔道大会が開催され、式典では恒例の挨拶が回ってきた。準備された書面を朗読すればよいと思いつつもそれを考えるだけで食事が喉を通らず、寝付きの悪い夜が続いたが、何とか事なきを得た。そんな不器用な自分の柔道人生を振り返ってみたい。

柔道との関わり
 広陵高等学校時代は特に目立った実績はなかったが、明治大学へ進学し4年生のとき東京オリンピックに出場するチャンスを得て、何とか軽量級(当時は軽・中・重・無差別の4階級)で金メダルを獲得することができた。しかし、柔道競技最終日の無差別に出場した明治大学の先輩であった神永昭夫氏の決勝戦での敗北は鎮痛の思いで、自分の喜びは半減したことを覚えている。柔道は、すべて金メダルを獲得しなければならない時代であった。
 大学卒業後、三菱レイヨンに就職したが、当時の西ドイツからミュンヘンオリンピックに向けたナショナルコーチの要請を受け、会社を退職し3年間海を渡った。任務終了後、帰国してからは兄が中心となって営んでいた家業(舶来雑貨店)に加わり、今日まで何とか生計を立てている。
 現在は母校広陵高校の柔道部師範として日々道場へ出向き、高校生へ熱い眼差しを送るのが生きがいであり、健康法とも思っている。

柔道連盟の運営
 広島県柔連の登録人口は、全国的な減少傾向と同様に現在3000人を若干切った。対策を考えねばと思っているのは我が県だけではないはずだ。組織は4つの地区(広島・呉・備後・北部)と大学・高校・中学・道場の支部に分かれている。その中で広島市を中心とする広島地区が最大地区であり、毎月1回「月次試合」を行っている。約60年の伝統ある行事として、現在では毎月約400名の参加者で盛り上がっている。近年は広島地区以外の3地区でも「月次試合」が開催される傾向にあり、参加範囲はそれぞれの地区や県を越えて外部からでも自由に参加を公募し、有益な交流が図られている。広島地区では、役員による早朝ミーティングを毎回行うことにより、柔道連盟運営に係わる問題、試合審判規定の問題等、情報交換には最適な場となっている。
 本県柔連が自慢できるもう1つの行事は「平和カップ広島柔道大会」の運営であり、例年3月末の大変混雑する時期の土・日に開催している。スタートした当初は、団体戦の「一般の部」と「高校の部」の2種目のみであったが、やがて「一般の部」に段位制限を導入して一部と二部に分け、さらに「高校女子の部」「一般女子の部」も追加して第31回大会から5種目で行う全国でも希少な珍しい大会となった。今年の春、記念すべき第50回を終えた。またこの大会は、3月末開催という事情から特例を設け、4月から入学または入社が決定している選手には進路先からの出場を認めている。これによって、春先からの新たなチーム作りや戦い方の戦略が練れる貴重な大会として位置づけされているものと自負している。

初の試み
 柔道人口減少については先に述べたが、本年9月、広島市の応援を得て柔道を知らない親子を対象にした「親子のための初心者向け柔道教室」を開催した。一般的な「柔道教室」は多くの柔道家を集めて、技術の紹介が主流であるが、この柔道教室は、貸し出し用の柔道衣を準備し5歳から中学生までの柔道未経験の子どもと保護者を対象にした。1回約2時間の教室を計7回開催した。講師は講道館・全日本柔道連盟からの派遣講師に地元からも数名補助講師としてお手伝いした。参加人数は保護者も含めて60名弱であったが、講習会終了後、希望する者には周辺の柔道クラブを紹介する等、柔道を継続できるよう支援を行った。
 その後、10数名の子どもたちが近隣の柔道クラブに入会希望を申し入れたと聞いているが、初の試みとしての成果は残したと実感している。2年後に東京オリンピックを控え、多くのスポーツ競技の話題やニュースが飛び交うなかで、未経験者をターゲットにした今回の柔道教室の開催は、初の試みであり柔道人口増加という意味においては的を射た行事と思っている。また、今日、柔道関係の行事予定を見ても、柔道人を対象とした大会や柔道教室がほとんどであり、未経験者を呼び込む行事は希少と思われる。今後も同様の行事を続けて取り組むことにより、柔道登録人口の増加に向けて取り組みたいと思っている。また、その必要性を痛感した。

 最後に5名の先生方(鮫島元成八段・秋山日向子女子四段・古賀稔彦八段・泉浩五段・樽谷哲子女子六段)には前後して入れ替わって広島市へお運び頂き、柔道を知らない子どもたちに対し、熱心なご指導を頂きました。参加した子どもたちや保護者の方たちは大変楽しいひと時であったと感想文に記載しておりました。誌面をお借りし厚くお礼申し上げます。

                              (広島県柔道連盟会長)

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