今月のことば

2016年6月号

柔道に感謝

高田勝之

　田舎の中学で柔道を始めた私はその魅力に取り付かれ、柔道を続けたい一心で警察社会に入りました。その選択は正しく、恵まれた環境の下でよき師よき仲間に出会い、今日まで柔道に携わることができたことに感謝しております。
　現役中は稽古稽古の日々を送っていた私の柔道に対する考え方が大きく変わったのは、現役を退くと同時に入校した警察大学校術科指導者養成科（柔道コース）で９ヵ月間学ぶ機会を得たことです。当時、大学校には醍醐敏郎、細川九州男両先生が教授としておられ、部外講師で来られる先生も高名な方ばかりでした。諸先生方の指導を受け、日本傳講道館柔道の成立ちや特性、創始者である嘉納治五郎師範の教えの一端に触れることができました。もちろん深く理解できたわけではありませんが、私なりに指導者の立場から考えるようになりました。

　養成科修了後、指導者として１年間、スリランカ共和国へ国際交流基金から派遣される好機を得ました。派遣に際しては醍醐先生はじめ、多くの先生方のお世話になりました。当時のスリランカは柔道衣や畳が不足していて不自由な中での活動でしたが、工夫しながら楽しく任務を全うすることができました。この貴重な体験から改めて講道館柔道の素晴らしさと、嘉納師範の偉大さを身に沁みて感じました。
　帰国して数年後、スリランカから仕事で来日し10数年間横浜に滞在した柔道仲間を介し、スリランカに中古の柔道衣、畳などを静岡県東部地区高校の先生方の協力のお陰で寄贈することができました。
　これら素晴らしい柔道を語る上で、我が静岡県で是非とも触れたいことがあります。それは講道館韮山分場のことです。明治15年講道館柔道が誕生してわずか５年後に、伊豆韮山の地に分場が開かれました。現在、静岡県立韮山高校の敷地内には、嘉納行光名誉館長の揮毫による「講道館韮山分場之跡」の記念碑が建立されています。韮山分場について造詣の深い、望月映英静岡県柔道協会元会長（故人）が静岡県柔道協会50周年記念誌『翔け柔道しずおか』に寄稿した一文を紹介いたします。
　『...「伊豆学校日記抄」（韮山高校100年資料編180頁）に出ている富田常次郎の覚え書きに、明治21年３月、嘉納師範が韮山分場を訪問されたことが書き残してあるので紹介する。「嘉納師範は西郷四郎、有馬純臣、湯浅竹次郎などの在塾有段者諸氏を連れて韮山を訪問せられた。そうして中学の学科教授の有様なども一通り参観せられたる後、師範始め有段者諸君も韮山分場で柔道の稽古をせられた事がある。此の一事大いに韮山分場の歴史を飾ったのみならず、その頃全国の中学校で柔道を課していたのは恐らく韮山だけであったろうと思う」嘉納師範は高弟に柔道の演技をさせながら、講道館柔道の本義を説かれたのではないか...』
　以下続きますが、嘉納師範と共に小説『姿三四郎』のモデルとなった"山嵐"の西郷四郎等が、この韮山の地で演技をしたのだと想像するだけで夢が広がります。

　技の理合いは「形」に表現されていますが、平成27年全日本柔道形競技大会において東海地区は平成21年（第12回大会）に続き２度目の総合優勝を遂げました。「柔の形」で初優勝の石田姉妹など東海地区代表選手の大活躍に心より拍手を送ります。オリンピックや世界選手権での金メダル獲得が難しくなっている昨今、形選手権大会についても外国勢の実力が迫っていると聞きます。そんな中で昨年行われた、第７回世界形選手権大会と第５回アジア形選手権大会で、日本は全種目優勝と聞きました。その中には東海地区の選手が10名もいます。世界大会では「固の形」の中山智史・林聖治組（岐阜）、「柔の形」：白野恵・光の姉妹組（岐阜）、アジア大会では「極の形」の今尾省司・清水和憲組（岐阜）、固の形：松川博茂・杉山康弘組（愛知）、柔の形：石田桃子・真理子の姉妹組（愛知）です。全国につながる東海地区予選では、これら選手を中心に激しい戦いが繰り広げられます。今年３月、東海柔道連合会の懇親会にはメダリストを招き、「形」談義で盛り上がりました。
　平成28年全日本柔道形競技大会において連続総合優勝を目指すとともに、世界に挑戦する若者の輩出と活躍に期待しています。
　東海柔連会長の任期も残り１年となりました。ご指導、ご協力を頂いた先生方に心から感謝申し上げます。この貴重な体験を糧に、さらに柔道の普及振興に尽力して参りたいと存じます。
（東海柔道連合会会長）

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