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今月のことば

2014年12月

柔道事故予防への取り組み

室田 直

 講道館、全日本柔道連盟、学校、町道場などでは、長年柔道の試合、稽古時における怪我、事故の予防に取り組んできた。特に全日本柔道連盟では柔道の安全指導冊子(改訂III版)の配布、安全指導講習会など47都道府県を対象に実施し、怪我、事故防止のための指導を厳重に行ってきた。なかなか予防することが出来ていない現状であるが、昨年発足した新執行部のもとで更に新たな施策にも取り組んでいる。特に宗岡会長、山下副会長は、自ら「全国柔道事故被害者の会」の人々と懇談し、怪我、事故発生時の状況報告を受けられ、改めて予防に万全の注意を払い徹底するよう指示された。また指導者講習会において「全国柔道事故被害者の会」の方から事故発生時の状況説明をして頂き、相互が予防に対する理解を深めた。全日本柔道連盟では、8月の理事会で重大事故総合対策委員会の設置が承認され、近石専務理事を委員長として委員18名、オブザーバー2名(うち1人は全国柔道事故被害者の会会長の村川義弘氏)が構成員として選出された。試合中、練習中の重大事故(脳、脊髄損傷)への対応指針として全日本柔道連盟医科学委員会が関係者(指導者、監督、コーチ、選手、審判員、ドクターなど)に対して示した指針を以下に掲げる。

1.脳振盪
① 脳振盪の症状:投げられた後に起こりやすい。症状は意識障害や健忘だけでなく、頭痛やめまい、気分不良、ふらつきなどだけのこともある。
② 脳振盪の持続:短時間で消失することが多いが数週間以上継続することもある。
③ 対応:直ちに試合、練習を止めさせる。意識障害があればすぐに救急要請する。そのまま続行させると致命的な急性硬膜下血腫となることがある。
④ 試合・練習への復帰:症状が完全に消失するまで復帰せず休息する。復帰する場合、段階的プログラムに基づき、メディカルチェックを受けた後に復帰する。脳振盪を繰り返すと、硬膜下血腫や慢性的な脳損傷を起こす危険がある。

2.急性硬膜下血腫
 投げられる時の回転加速度損傷で発生する。外傷後に頭痛などが持続する場合、薄い硬膜下血腫が発見されることがある。1度急性硬膜下血腫や脳損傷を生ずれば治癒しても原則として競技、練習に復帰すべきではない。繰り返すことで致命的となる場合がある。

3.脊髄損傷
 脊髄損傷は投げられて起こる場合と投技(内股など)を自ら掛け頭頂から突っ込むことで起こる場合がある。頚部の過度の伸展や屈曲により頚髄が損傷される。時には頚椎に脱臼や骨折が起こることもある。手足の動きが悪い、感覚がない、しびれ、痛みなどがある場合に疑う。疑われる場合は首を動かさないようにして担架などで場外に運び、直ちに救急要請する。

 頭部外傷については永廣信治委員、脊髄損傷については紙谷武委員、総合的には宮崎誠司委員が担当執筆した。なお、詳細については「柔道の安全指導2011年度版」に記載されている。現在改訂IV版、DVD作成の準備中である。
 また、柔道の外傷について様々な角度から研究に取り組んでおり、2014年度は医科学委員会の研究テーマ中4項目を柔道の外傷に関する研究が占める。(1)後ろ受身時における筋電図実験(紙谷委員、戸松泰介前委員長)、(2)柔道における怪我のデータベース(宮崎委員)、(3)柔道の安全な受身に関する研究(松永大吾委員、岡田尚之委員)。(4)柔道における脳振盪発生の現状分析(永廣委員、新原勇三委員)。
 また、「まいんど」創刊号にも宮崎委員が指導者のスキルアップのためのゼミナールで、柔道による重症頭頚部外傷予防について執筆している。以上述べてきたように重大事故予防には柔道の正しい指導、十分な準備運動、十分な受身の練習、理に適った技を掛けるなど多様なことに注意を払わなければならない。これからも講道館、全日本柔道連盟は一丸となって重大事故予防に取り組んでいく必要がある。

付記
 柔道大好きな医師が集まって全日本医師柔道連盟を作っている。全日本柔道連盟医科学委員会の委員は殆どが医師柔道連盟のメンバーである。全日本医師柔道連盟は年に1回、全日本医師柔道優勝大会を開催している。女子の部、男子の部は20代から80代まで年齢別に試合を行い、本年で第36回大会をすでに終了している。さらに過去19年間に亘り、視覚障害者、医師、大阪柔整の3チームによる交流試合を大阪柔整会館柔道場において行っている。視覚障害者チームにはパラリンピックのメダリストも参加している。年に1回の交流試合であるが、試合終了後には、視覚障害者チームの家族も一緒に懇親会を持ち、親睦を深めている。

(全日本柔道連盟医科学委員会委員長)

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