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今月のことば

2016年12月号

巻頭言

日本伝講道館柔道の普及

木内義雄

 

 本年4月から、長野県柔道連盟の会長として県内柔道愛好者とともに、講道館柔道の普及発展と青少年の健全育成のため、各種業務を推進しております。
 私と柔道の出会いは、小学校4年のときでした。柔道好きの駐在さんが村に着任し「子どもたちを健全に育成するため公民館で柔道を指導したいが、柔道畳を用意できないか」との話があり、畳屋だった父親が中古の畳を加工して寄付をしたことが縁で、柔道を始めるようになりました。それまでは、小学校のグラウンドで野球や相撲をしていた毎日でしたが、駐在さんの指導する道場ができてから、村及び周辺のわんぱくな子どもたちは、柔道に熱中するようになりました。
 当時は、中学校や男子のいる高校には、すべて柔道部がありましたので、中学校に進学しても柔道をすることができました。駐在さんに指導を受けた子どもたちは、ほとんどが柔道部に入部、高校に進学しても中学校の柔道部員はそれぞれの高校の柔道部に入部し活躍しておりました。
 さて、昨今、柔道の普及については、スポーツの多様化、少子化などに伴う児童生徒の激減が続き、苦労を嫌う風潮も手伝って、中学校、高校の柔道部は極端に部そのものや部員が少なくなり、競技人口の減少という事態に遭遇しています。また、重大事故、ハラスメント等の影響による柔道人口減少問題も多岐にわたっており、まさに危機的な状態にあります。
 本稿では、講道館柔道の普及について、長野県柔道連盟会員の思いを参考に、私見を述べさせて頂きます。
正しい柔道の伝承
 嘉納師範は「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である。その修行は、攻撃防禦の練習によって身体精神を鍛錬修養し、斯道の神髄を体得することである。そうして、これによって己を完成し世を補益するが柔道修行の究竟の目的である」と解説しており、この教えを常に忘れずに柔道を指導していくことが肝要です。
 現在、会長として、大会、講習会で必ず挨拶がありますので、その機会を活用して、大会では①正々堂々と「一本」を目指した柔道、②勝っておごらず、負けて悔やまず、③礼節を重んじる等、講習会では、①自己の完成を目指す、②実生活に活かし社会に貢献する等、を伝え、選手や受講生の、勝負・体育・修心の養成につながることを期待しております。
  柔道の安全性の確立と教育的価値の理解
 昨今の子どもたちは、サッカー、野球、バスケットボール等の球技に大きく流れていると言われていますが、柔道以外の剣道、空手、弓道等の武道人口については、少子化の影響などを考慮しても、さほど減少しているとは思えません。これは、今の保護者が、武道による人づくりに期待しているからだと思われます。
 私たちは、柔道の安全性の確立と柔道の持つ教育的価値を理解し、まず手始めに、武道に興味を持っている子どもたちや、武道による人づくりに期待している保護者などが、柔道を習いたい、習わせたいと思うよう、柔道イベント等の開催を含めあらゆる広告媒体を活用したイメージアップを図っていかなければなりません。なお、子どもたちを育成するにあたり、長い目で見て育てていく方向性も併せ持っていくことが大切です。
中学校・高校の指導体制の確立
 県下高校の柔道部員は、10年前に比べると、66%減少しており危機的な状態です。県大会の団体戦にあっては、メンバーが組める学校が減少し、地区予選を勝ち抜いた学校しか出場できなかったのが、近年ではすべての学校が出場できるようになってしまいました。この要因の1つに、柔道経験のある顧問が転勤したとき、後任が未経験の顧問になって部員が減少し、柔道部が廃部になってしまうというケースが続いていることが考えられます。
 このような状況を打破するため、県教育委員会に、柔道経験のある教員の適正配置と、未経験でも柔道の魅力を生徒たちに伝えられる指導者を1人でも多く、連盟と教育委員会で育てていく旨をお願いしております。
 また、長期的には、進学率の高い高校へ、柔道経験のある教員を配置して頂き、1人でも多くの柔道部員を教職課程のある大学に進学させ、中学校・高校の教員として本県に戻ってきてもらう等の対策を立てる必要があると思います。教員1人が、40年間でおよそ600人の柔道部員を育てます。しかし、教員採用試験に合格させる手立てを考える必要もありますし、県教育委員会にお願いして柔道部のある中学校や高校に優先的に配置して頂く等、課題も多くあります。
 最近読んだ雑誌で「かつて、日本が高度成長の途上にあり、消費者に購買力があったころは、『いいモノを作れば、待っていても売れる』という時代でしたが、現代は、企業が買い手の生活環境や経済状態などつぶさに調査し、買い手が何を望んでいるかを把握して、それに基づいて商品、サービスを考案・制作し、価格を設定します。そして、買い手に確実に届くような宣伝方法を編み出し、買い手が手に取り易い流通経路を構築します。このように、徹底して買い手のことを考えるさまざまな仕組みを作ること、これがマーケティングであり、戦略のひとつです」との文面を目にしました。
 長野県柔道連盟も、柔道という素晴らしい伝統文化の普及について、待っているだけでなく、子どもたち並びに保護者の要望などを把握し、柔道の特性は変えることなく、柔道を習う人たちのニーズに応えるべくマーケティング、戦略を立てなければならないと痛感しております。
 柔道に育てて頂いた私たちは「力必達」(最善の努力は、必ず結実する)の積極的な精神で、日本伝講道館柔道の普及に尽力する所存であります。
(長野県柔道連盟会長)

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