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今月のことば

2010年03月

未来に託す

瀬古 修

 二人の孫と、柔道三昧の日々を送っているこの頃である。孫の姿を見て、昔の自分を思い出した。柔道とは無縁の世界を目指していた私が、恩師の熱烈な指導で厳しい稽古に耐え、そのお陰で柔道そのものが生活の糧となった。孫に対する思いは、師が私に柔道を愛する姿として残してくれたものと受け止める事ができる。そこで今日の柔道のあり方について述べてみたい。

指導者養成プロジェクトに注目
 平成二十年度柔道年鑑(全柔連)での報告によれば、「指導者の更なる資質向上と柔道の正しい普及・発展を目的として『指導者養成プロジェクト』をスタートした」と記されている。日本柔道の将来を見据え、長期的視野に基づいた指導者養成システムの構築は重要課題であり、この事業の成果を期待している。事業報告の中身は七つの項目に分けて説明されており、特に指導者必携の「教本」作成検討に注視、「柔道の歴史を正しく知り、嘉納師範の解かれた柔道精神・教育思想への理解を深めるべく指導者必携の『教本』作成をすすめた」とこのように記載されている。

 常日頃から柔道技の動作の原理に関心を持っており、身体の動きは基本的に、運動力学が中心となっている。作用・反作用、重力、重心、遠心力、反動、運動連鎖、筋肉の強さや柔軟性等が関係する。それ以外にも生理学や、精神力や集中力などの心理学面など重要な要素が含まれている。日本古来の武術の動作、食事と栄養、ボディバランス等を考えて現在まで指導育成に努め、実績からも効果があると自負している。キッズ指導者にもこの教本を座右の書として、指導育成に役立てていただけることと思う。
 
講道館高段者名簿から思う
 この冊子はご存知の通り、四百三十ページにも及ぶ六段以上の人名が掲載され、ありがたく拝見している。一人ずつの名前を拝見し、懐かしくお会いした当時のことがよみがえって感慨深いものがある。暇を見つけ時には名簿に話しかけたり、思い出を語ったりする事もしばしばで名簿が話し相手のようになることもある。こんな様子を見て七十歳になれば暇だから・・・と言われそうであるが、お陰さまでまだまだ忙しく専門学校の非常勤講師、少年柔道クラブの指導、県柔道協会の会長もおおせつかりなかなか多忙な毎日でうれしい限りで感謝している。

 名簿の話に戻るが、懐かしい先輩の技、今でも幻の技と言われる「跳腰」を思い出す。「右組みで、まず左足で軽く相手の足を払う動作の後、すばやく右足が舞い上がってくる感じで相手の膝付近を猛烈に跳ね上げていく。また、側胸が相手の胸に密着し、ひじが腋下に入り、相手を跳ね上げる技」は今でも投げられた感触がよみがえってくる。「燕返」「大内刈から小内刈の連絡技」等、今では誰も出来ないような技を掛ける先輩をみつけ奥義の深さに改めて敬服する。当時掛けてもらった言葉や、しかられた言葉、乱取中にかばい手が無く相手に謝ったこと等を思い出し、今の自分があることに感謝する。高段者の方に改めて感謝の気持ちと、お礼を述べたい。ただ自分の性分として、合計人数が知りたく数えた。約一万二千人位であった。今も柔道精神で、元気百倍活躍をしておられることと推測する。高段者として甘んじることなく真摯に受け止め、終生柔道人として嘉納師範をお慕いし、敬愛の念を持って歩まれた足跡を学び問題意識を持って日々精進することである。自身の完成と補益、後継者の育成に携わって行きたい。

 人生の教訓でもある種々の嘉納師範のお言葉を刻み、「竭己竢成(己を竭(つく)して成るを竢(ま)つ」の言葉を掲げ座右の銘としている。

(三重県柔道協会会長)

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