今月のことば
2012年01月
年頭所感
講道館長 上村 春樹
平成24年の新年を迎え、心より新春のお慶びを申し上げます。
昨年は日本にとって地震や台風などによる自然災害の多い年でした。特に、3月11日に東日本で起きた大地震、大津波によって、過去に例を見ない大きな被害を受けました。被災された皆様、また、親族や関係の方々には心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧復興をお祈り申し上げる次第です。
さて、一年を振り返りますと、昨年は日本のスポーツ文化を牽引してきた日本体育協会・日本オリンピック委員会の前身である大日本体育協会が嘉納治五郎師範を初代会長として設立されて100周年を迎えました。その記念式典が7月16日に新高輪プリンスホテルで天皇皇后両陛下ご臨席のもと開催され、奉祝行事として斉藤仁八段、佐藤正八段により「古式の形」が演じられるなど、成功裏に終了しました。
3月には、海外で初となる「講道館形講習会」をヨーロッパ柔道連盟主管のもとクロアチアのザグレブで行いました。講習会には、23ヵ国から約250名の参加がありましたが、クロアチア大統領が激励に来られるなど「形」への関心の強さが窺えました。大統領は挨拶の中で、柔道の教育的価値の高さを認め、普及とその好影響への期待を表しておられました。
「形」の大会は国内外で年々盛んになっております。日本代表選手はタイで開催された第1回アジア形選手権大会で全種目に優勝し、さらにドイツでの第3回世界形選手権大会でも全ての形を制し、三連覇を成し遂げてくれました。
8月には、パリで世界柔道選手権大会が世界131ヵ国・地域から864名の参加を得て盛大に行われました。世界の競技レベルが向上する中、日本選手は厳しい戦いを強いられましたが、良く頑張り、金メダル5個、銀メダル7個、銅メダル5個の成績を残してくれました。また、将来を担うジュニア世代も中国の深圳(しんせん)でのユニバーシアード柔道競技、ウクライナのキエフでの世界カデ柔道選手権大会などで好成績を上げています。特に、11月に南アフリカのケープタウンで行われた世界ジュニア柔道選手権大会では16階級中12個の金メダルを獲得する大活躍を見せてくれました。日本選手たちの試合内容の素晴らしさに加え、礼節を重んじた立派な態度に対して、国際柔道連盟役員や他国関係者から大きな賞賛を受けました。
国際柔道連盟による試合審判規定の改正、柔道衣の新規格導入などが功を奏してか、世界各国の選手たちが、正しく組み合い、柔道本来の技による攻防が多く見られるようになったことは歓迎すべきことです。しかし、未だ、技の判定、投技か自らが倒れたのかどうか、立姿勢か寝姿勢かの判断などが曖昧であり、早急に取り組まなければならない大きな課題として残っています。また、試合後の過激なパフォーマンスや判定を不服とした不遜な態度は目に余るものがあることから、国際柔道連盟では倫理委員会を立ち上げることにしました。そのような対策を講じなければならなくなったことは、柔道を教育と位置づけている私たちにとって大変残念なことです。本来、礼節を重んじる柔道の精神などは修行を積む中で自然に身につくはずのものであり、修行途上で血気盛んな時期にあることを差し引いても、若気の至りでは済まされません。柔道修行者には社会の一員としても責任ある行動を望みます。
今年は4月から中学校において武道の必修化が完全実施されます。中学校において柔道が青少年の健全育成に寄与するように、導入を安全かつ円滑に行う手助けをしなければなりません。柔道界としてはこれまで授業づくり教本・DVDの作成、初心者・安全指導の講習会、外部指導者の養成などを積極的に行ってきました。授業で、指導者は安心で安全な柔道指導を心がけ、生徒たちには礼節を重んじる柔道の精神、技に触れ、日本の伝統的な武道文化を体験してほしいと思っています。
7月27日から8月12日にはロンドンオリンピックが開催されますが、嘉納師範が団長として日本が初めて参加した1912年のストックホルムオリンピックから100周年にあたる大会です。オリンピックは選手たちが鍛え抜いた技と精神を発揮する場です。出場する選手たちには「礼節を重んじ、立派な態度で、正しく組み、理に適った技で一本を取る柔道」を実践した最高の試合が展開できるように、本番までに更なる精進を重ねてくれることを期待しています。
また、本年は講道館創立130周年の記念すべき年であります。我々は嘉納師範が創られた講道館柔道を後世に正しく伝えていく責務があります。そのためには師範が示された「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である その修行は攻撃防御の練習によって身体精神を鍛錬修養し斯道の神髄を体得することである そうしてこれによって己を完成し世を補益するが柔道修行の究竟の目的である」を実践しなければなりません。併せて本物で強い競技としての柔道にも力を入れていかなければなりません。創立130年の節目にあたり、目標の達成に向けた施策をより具体的に推進する所存です。
私の好きな言葉の一つに「読書百遍」という熟語があります。正式には「読書百遍義自ずから見(あらわ)る」であり、これはどのような難しい本でも繰り返して熟読すれば、意味も自然に理解できるようになるということですが、まさに我々の柔道の修行もそうだと思います。私は「続けることの大切さ」「量をこなすことの大切さ」ただ漫然とやり過ごすのではなく「当たり前のことをきちんとやることの大切さ」が重要であるということを表した言葉だと理解しています。私たちは常にこのことを心がけて鍛錬に取り組まねばならないと思っております。
今年も地道ながらも確実に「精力善用」「自他共栄」の実践に努め、柔道の普及振興に全力を尽して参りますので、皆様のご指導、ご支援、ご協力を宜しくお願いいたします。
むすびに、今年一年が皆様にとりまして素晴らしい年となりますよう祈念いたします。
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