今月のことば
2004年04月
医学生の柔道大会に見事な講道館柔道の原点を見た
長谷 拓興
「本日参加された皆様は、将来医師として、また医学の研究者として、終生世に貢献すべく勉学に励んでいる方々ばかりであります。柔道の『道』を学ぶことは『医道』や『人の道』に通じる偉大な『道』を学ぶことであります。この精神は、必ずや医師として、また医学者として終生皆さんにとって大きな力となって生きつづけることは間違いありません。」
このご挨拶は、平成15年8月3日、京都市武道センターにおいて行われた、西日本医科大学柔道大会の開会式にあたっての大会委員長山岸久一先生のご挨拶の一節であります。
ちなみにこの山岸久一博士は京都大学と並び称せらる医学の最高学府、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器腫瘍抑制外科学教授であり、同大学附属病院長でもあります。 当日会場に居並ぶ医学生は、(1)宮崎医科大学(2)京都府立医科大学(3)産業医科大学(4)名古屋医科大学(5)金沢大学(6)広島大学(7)九州大学(8)川崎医科大学(9)高知大学(10)鹿児島大学(11)関西医科大学(12)長崎大学(13)福岡大学(14)近畿大学(15)滋賀医科大学(16)大阪医科大学(17)徳島大学(18)熊本大学(19)奈良県立医科大学(20)岡山大学(21)久留米大学(22)香川医科大学(23)福井医科大学(24)愛知医科大学(25)金沢医科大学(26)山口大学(27)佐賀医科大学等、27大学の団体試合と共に夫々の大学の女子医学生35名の個人試合も行われ三百名に及ぶ堂々たる医学徒の俊秀であった。
(一)その開会式直前、目を疑うような光景が展開されたのである。
美しく着飾った京都祇園きっての一流の名妓が悠然と、そして威厳さえをもって、すべるように進んできたのである。そしてやがて心にしみる見事な三味線の音がかなでられ、四人の一流の名芸妓が華やかに舞ったのである。水を打ったような静寂の一瞬であった。
この名妓達を迎える計画に対し、一寸した議論もあったやに聞くが、筆者はこの行事について、若き医学生達の偽らない真情を知りたく、多くの医学生に面接による調査を試みた。
其の結果は何と驚くべき結果が出たのである。主だった中心的な反応を記しておこう。その(一)、静かな旋律に乗って入場する名妓の姿には気負いもなく、さりとて傲慢さもなく、悠然と進む姿に、柔道における基本姿勢を直感し、あらためて教えられたようであった。その(二)、舞う姿に乱れが全く見られず彼女らの日頃のきびしいであろう修練に感服した。その(三)、一本足になって微動だにしない姿に自分の未熟さを痛感した。その(四)、医師として患者に直面した時の真情を重ねて見、きびしい反省を与えていただいた。その(五)、舞いながら一回転する動作には全くすきもなく心から脱帽した。柔道においても医師になる為の強い反省とはげみを与えていただいた。その(六)、日常のきびしい修練がそうさせているのだと心から感激した。等々であった。
総括して言えることは、多くのこの若い医学生が、実に医学生らしく自分自身に結びつけた直感力は、実にうがった実に的確な視点に充ちた洞察力であったのである。
そして彼らの多くは名妓の美しい姿・顔よりも"柔道の道"そして"医道"に言いえない共通点を自ら真剣に見出したものと総括しうる。あらためて若き将来を担う医学徒に、しみじみ教えられた思いであった。
同時に、この行事計画が、言語に絶する医学生ならではの見事な、そして明日への指針を与えてくれたこの行事を、立案し実行された山岸久一教授の抜群の洞察力に心から敬意を表したいと存じます。
(二)「医科学生がまず何を求めて柔道の道を志したのか」も本大会に当たっての筆者の大切な命題の一つであった。
当日前記のとおり三百名に及ぶ医科学生、そして会場を埋めた先輩医師、研究者が、力いっぱい応援された光景は、実に印象に残った大会でもあった。
筆者は(一)と同様(二)の命題を求め医学生にアンケートをさせていただいた。
主な調査データは次のとおりであった。
A="健康"を柔道に求めた。────────────────── 28%
B="忍耐力"を柔道に求めた。───────────────── 24%
C="克己"を柔道に求めた。────────────────── 17%
D="敗北"にも"失敗"にも、くじけない強い心を求めた。──── 16%
E="柔道は人の道を重んじる心"を養う道であるから。────── 15%
上表についてアンケート用紙と併せ直接面接し深く多くの真意を聞くことが出来たことは幸せであった。
患者の執刀に当たり、10時間も13時間も立ったままでの激務、また途中で思わぬ病巣の発見に、冷静に対応、決してギブアップの許されない聖職、身も心も動揺することのない強靱な心と体力等、柔道の道に求めた医学生が予想以上に多かったことに再認識し、あらためて柔道の重要さと共に真剣な今後への対応を痛感したのである。
以上は現実への警鐘とも言いうる若き医学生の叡智に充ちた具体的な方向性を示していると筆者は痛感した。
終りにのぞみ、講道館柔道の真の姿と心をもった日本柔道のより良い本流に充ちた発展に具体性をもって次の如く対応すべきでは、と思考する。
その(一)は世界に名を成す名選手の活躍=これはもとより言をまたない。
その(二)は前記の如く若き医師・学者・作家・法曹界(検事・弁護士)・政治家・財界人等、かって柔道を学び、現在尚矍鑠として社会に貢献しつづける人物など、"もう一つの金メダリスト的人物"を発掘し、顕彰し、長い人生にあって如何に柔道が価値高く尊いものであったかを伝承し、浸透させることが重要ではなかろうかと思考する。唯言えることは、前記
第一のみに拘泥することなく、
第二にも重点をおく両輪の論理こそ、これから世界にはばたく青少年諸君のためにも、日本柔道の健全な発展のためにも欠かしえない大切な論理と思考するが如何。
全国のそして世界の、こよなく柔道を愛する先生方と"莫逆の友"となり、今こそ真の柔道の原点に立った正に"莫逆の友"たらんことを心から念じ期待し筆をおきます。
(京都府柔道連盟会長・教育学博士)
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