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今月のことば

2007年05月

人は、柔道に何を学ぼうとし
柔道は、人に何を教え崇めんとしているのか

長谷 拓興

教育のこと、これにすぐるもの無し。
今更申し上げるまでもなく、私達が心から御尊敬申し上げている嘉納師範の古今、東西、不滅の名言であります。
 私が柔道を学ぼうと考え、そして決心したのは、中学二年の春であった。当時私の父は、宮中東伏見宮殿下の「文官」として宮中の、あおい御殿にいた関係より、東大を卒業された俊秀中の秀才の嘉納治五郎師範が、何故この素晴らしいお言葉を示されたのか、父は、諒々と論理正しく語ってくれた。そして父は、「柔道を学ぶことは、この立派な先生の、このお言葉どおり、とても素晴らしい道だよ」そう言って勧めてくれた。しかし一ツの条件がついた。
「自分は柔道をやっているんだぞ!!そう敢えて表面に誇示するようなことは、決して、してはならない」そう諭された。
 父と共に、同じく、東伏見宮殿下の「武官」をなさっていた、元駐英大使の、川嶋令次郎海軍中将からも「全くお父さんの言われるとおりだよ」そう言って、「掛軸」を貰った。「終りを慎むこと初めの如くなれば、こと成らざるは無し」であった。
 そして川嶋中将は、
 柔道の道は日本人の大切な心である。その心を決して忘れずに頑張り給え!!
 そう厳しく言われた後、急にニッコリ微笑んで「実は私も、嘗て柔道を学んだ講道館の門下生だよ」「今から君とは友人だね」明るくお互いに笑った。その時私は、瞬間ドイツのオットーホンギルゲ教授の名言「人の人たる所以のものは人と人との和合にあり」と結ばった。
 すばらしい先輩が出来て良かったね。父がそう言った直後、三人の熱い握手となった。三人が握手し乍ら、父は改たまって、
 柔道は、立派な人物をつくる道だよ。
柔道をやるとかやっているとは言わず、必ず柔道を学んでいる 柔道を学ぼう!と自分の言葉として心から、お互いがお互いを崇め合っている崇高な柔道であり、武道であることを心に、日に新たに日々新たなる新鮮かつ尊敬の念を常に心にもつんだよ!!
 このお二人の言葉の中に秘められた深奥の心は今も私の心の中に脈々と生きつづけている。

 柔道は人に何を教え、授けんとしているのか。
 私は幸せにも、少年時代より「柔道を学ぶ者への大切な心」を諒々と教えていただき、その後、その心を大切に、柔道をこよなく愛し、尊敬しつづけ、永い半生を柔道と共に、学問においても、厳しい実社会にあっても常に輝かしい光と感動と希望と、そしてほこりを、この誇り高い柔道によって美事に授けて戴いたと心から柔道に感謝している者であります。

 柔道を通しての心の通じ合った交流について
 京都府柔連は、パリとの交流大会を永年継続しているが、その間には正直問題もあった。一九九一年、フランスは国際世論を無視し、核実験を強行。その年は、いつもの如く長谷が、選手団団長としてパリ遠征であったが、本件について、当時京都市長と京都府知事、議員の先生と、小生とが会議をもち、途中両市交流大会中止すべしの意見も出されたが、結論は、長谷に日本の、そして京都市の強い反核の意志を伝えてほしいとの結論となった。私は、フランス大統領にも強く日本人の核反対の意志伝達をした。それまでの両市交流には必ず小生団長として親友も多く、想像以上のフランスの謙虚な対応に両市交流の深い心のつながりを感じさせられた。反核表明の新聞記事は大きく掲載され、ジャック・シラク大統領、副大統領(最高主席補佐官)グルード・モンタニオン様とも逆に一層の親交を深めることとなった。
 このフランスとの会談において、勿論日本とフランスが共に世界平和への願いをこめて、小生は下手なフランス語で力説(涙を流し乍ら)した。両市両国の友好を一層崇め会ったと確認、今後永久に仲良く、お互いに柔道の精神、「教育のこと、これにすぐるもの無し」こそ両市両国の限りない「要め」であることを強調した。
 永年にわたる両市両国の心のつながりは崇高な柔道の原点に力強く結びつくものと思考される。
 世界に誇る日本柔道の一層の飛躍と、品格高い日本柔道が尚一層品格に充ちた発展を心から願って、巻頭言の粗説とさせていただきます。

(元京都府柔道連盟会長・教育学博士)

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