今月のことば
2009年10月
柔道に思う
長谷川 大恭
本来柔道を考えるに「柔道を思う」と言うのが本筋だと思いますが、考え方に天邪鬼的なところがあり、あえて「柔道に思う」としました。
先ず福井県の紹介をさせていただきます。人口約83万人、柔道登録人口約1300人と小さな県ではありますが、役員を始め指導者一同皆自分のポジションを守って頑張っているところであります。
小学生の活躍は各地区の頑張りと指導者にも恵まれ、全国大会に入賞を果すなど、その影響には大きいものがあります。またその影響力は中学生にも波及していますが、如何せん中学生の場合は柔道を専門とする教員が不足しているため、その後の継続的指導が出来ないのが現状であります。またどこの県でも同じだとは思いますが「有力選手」の県外流出が大きな問題となっております。これには本人の上昇志向が非常に高まっていることが、大きな理由の一つであると考えています。全国区の有力校で力一杯やりたい、有名選手のいるところで自分もやりたいという気持ちは理解できますが、せめて高校までは自県で力を伸ばし、それぞれの県を盛り上げてほしいと願っております。
各県で現在ご指導されている柔道愛好家の皆様は、日夜柔道普及にご尽力いただいておりますが、中々思うようには進んでないのが現状だと思います。
特に思うことは、「競技柔道」と「柔道」の違いにあると思います。
今世間では、「柔道」と「JUDO」の違いと言っている話も散見されますが、その違いではなく、最近の柔道があまりにも「競技柔道」に移行しすぎているのではないかと思います。オリンピック・世界選手権等で優秀な成績を収めることは大切なことではありますが、柔道は本当にそれだけで良いのでしょうか。
今回の国際柔道連盟試合審判規定の改正で、どこまで本来の柔道に戻るのかしっかり見届けたいと思います。
最近、柔道ルネッサンス運動が行われておりますが、この度『柔道への想い』という本が出版されました。その中にも書いてありますが、「なぜ、今柔道ルネッサンス運動か」を読んで正にその通りだと思います。また多くの先生方がこの本に執筆されておりますが、その指導者の教え子たちが将来の指導者になって柔道を指導していくのです。この運動によって本来の「柔道」が再生・再興されることを望んでいます。
このように柔道ルネッサンス運動が行われるようになったのは、昨今の柔道があまりにも「勝」にこだわり過ぎてしまって本来の柔道からはずれてしまったからかもしれません。
嘉納治五郎師範は、戦前東京オリンピックの誘致に尽力されましたが、柔道のオリンピック参加には決して賛成ではなかったという話を聞いたことがあります。また柔道の大会も最初のうちは観客なしで行われたとも聞いております。
柔道を指導する上で選手を含めて指導者がどのように柔道を教えていくか、どのように取り組んでいくかを見つめ直す時代になってきたのだと思います。
私たちの時代の柔道が良かったと言うのではなく、今の教育と指導者自身の目が余りにも競技柔道に走りすぎているのだと思います。しかし本来あるべき姿に戻ろうという気運が起こるということは、柔道の本旨は失われていないということです。指導者が原点に返って社会の基本・規範を柔道を通じてしっかりと継承する時代になってきたのではないでしょうか。
嘉納治五郎師範は「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である。......これによって己を完成し世を補益するのが柔道修行の究竟の目的である」と教えられています。
競技に勝つことも大切だとは思いますが、我々に、柔道指導者に与えられた使命として、人間形成という観点からも広く教え、他の競技の指導とは異なる一線をもって指導した方が良いのではないでしょうか。他の競技にこのような教育的教えが残されているものはほとんどありません。ここが他のスポーツとは本質的に違うところであります。柔道の原点はここにあるのではないでしょうか。
私は、指導者として「柔道に思う」に以下の3点を挙げたいと思います。
1 指導者は「自分が柔道を好き」になってほしい
2 指導者は「自分に厳しく」あってほしい
3 指導者は「柔道衣を着て」ほしい
1 柔道が好きになってほしい
昔から「好きこそものの上手なれ」と言いますが、指導者の皆さんは、柔道が好きでやっておられると思いますが、その指導する言葉の中に「柔道ってこんなにいいんだよ」「体は丈夫になった」し、「言葉もはっきり話せるようなった」し、「挨拶も出来るようになったね」と褒めてやることが大切ではないでしょうか。
2 自分に厳しくしてほしい
指導者はややもすると寒い時に自分自身が暖かい服装で生徒には......昔の先生方はいつも柔道衣だけで指導されており、私は寒くないのかなと思っていた事もありましたが、最近はそのような指導者が少なくなりました。指導者自身が指導する姿勢を示して頂きたいと思っております。
3 柔道衣を着てほしい
近年の指導者は道場での柔道衣姿が少なくなっております(本県だけであったらお許しください)。特に中学校の指導者に多いと感じているのは私だけではないと思います。原点である高校・大学時に、生徒としてどのような指導を受けてきたのでしょうか。
また指導者自身の昇段にも無頓着と言いますか自分は昇段という努力はしないが、生徒には「あれも・これも」と指導しているのが見受けられます。まず指導者自身が範を示してほしいと思います。大半の先生は、指導に時間がかかりますので「そこまで時間がない」「私はいいです」といってその努力をしようとしない。先生方には、常に生徒に対して、柔道家の鑑としてあって欲しいと思います。
私事ではありますが、私が柔道を始めた動機は、たった一度見た、当時大学生だった兄の見事な「一本勝」でした。当時私は病弱(小学5年時腎臓病長期入院)で医者から運動を止められていたのですが、柔道を始めてからはめきめきと身体が丈夫になり、学校も皆勤できるようになりました。柔道は暑さ・寒さにかかわらず裸になってやることが身体を丈夫にし、人間性を養えるというところが良さの一つだと思います。
そして強くなることも大切だと思いますが、それよりも「継続」することによって培われる気力・体力の向上と、社会に出てから順応出来る精神力を培い、養うことが大切だと思います。
また、小生が柔道を始めた当時というと、まだ武專出身の先生方が厳しく指導しておられたのが思い出されます。高校時分に東海四県(一般)の大会に軽量級で出場させてもらいましたが、当時は今と違って柔道衣を入れるバックが小さくて、柔道衣を入れるのも仲々大変でした。柔道衣をきちんとたたんで入れるのですが、なかなか入らなく「膝」を使って、また叩いて入れていましたところ当時の先生に柔道衣を叩くとは......ときつく叱られたのが記憶に残っています。
以上のように、柔道は「礼」を重んじ、「人格を尊び」、「相手を思いやる」ことで初めて強くなるのだと思います。今この柔道ルネッサンス活動によって、柔道がまた更に素晴らしい方向に発展するよう期待し、私もそのために微力ながら力を尽してまいりたいと思います。
最後になりましたが、福井県柔道連盟の第9代会長として昨年就任致しましたが、まだまだすべてにおいて未熟です。平成30年には2巡目福井国体も決まり、これからはその準備と指導者の育成・競技者の強化に力を入れていきたいと思いますので、今後とも一層のご指導・ご協力の程お願い申し上げます。
(福井県柔道連盟会長)
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