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今月のことば

2017年11月号

講道館柔道 燦然たれ

五十嵐 寛司


 戦後、講道館と全日本柔道連盟は、両輪、双翼として機能したことで、国内の柔道愛好者たちが一致団結、協力しながら動乱期、空白期を乗り越え、今日に至っている。両法人の目的に共通点は多々あり、協調してその任に携わることは然るべきである。
 ただ、「日本伝講道館柔道」があって、そこから多くの道が開け、活躍の幅が広がってきたことを理解しなければならないことを申し上げたい。
 講道館柔道を学ぶ私たちは、嘉納治五郎師範の教えを基とし、先人たちが創生した偉大な業績を受け継ぎ、「日本の文化」として世界に発信し続ける「責務」を担っている。
 柔道家は、いつの世代でも「守るべきものは守る」という姿勢を崩してはならない。守るべきものとは、「受身と礼法の徹底」「技の修得と錬磨(一本を取る柔道の追及)」だと私は考える。
 そして、これからも研究、考察しなければならないものに、試合審判規定と体重階級制がある。国際柔道連盟試合審判規定は繰り返し改正されて紛らわしい。もちろん第一線の指導者や選手は規定を熟知研究し、勝利に結びつけることは当然であるが、この規定はそもそもが勝敗を決めるためのものである。

 翻って、講道館柔道試合審判規定には「勝者」「敗者」と「引き分け」がある。「引き分け」という言葉のもつ清々しさ、心地よさは大和魂に通じるものがあると感じる。そして「引き分け」の意味することが、講道館柔道の原点であると私は考える。講道館で挙行される全国柔道高段者大会は、この講道館規定で行われている。勝負だけにこだわらない、生涯スポーツの一環として毎年千数百人が参加し、更に各都道府県でも独自に開催されて全国の高段者の健康と親睦の一端を担っている。
 また体重階級制については、練習法、試合上の対応等が研究され、論文も多くあり、今後も議論が深まるものと思う。因みに私が昭和34(1959)年に著した卒業論文は『高校生の体重別について』であった。
 試合に際し、勝ちを制することは格段の努力なしでは達成できない。但し、3、4年間頑張ってどれだけ練習を積み重ねても優勝者は常に「一人」であり、栄光を手にすることの出来ない人が大多数である。
 けれどもその後の人生、それぞれの社会で様々な頂点に立つ可能性は誰もが持っている。柔道は道場でしか出来ないものではない。それぞれの職場で職務を全う出来る人は、柔道の理にかなっていると思う。運も実力も味方にし、健康管理を十分にし、社会人としての務めを果していくことも、これまた修行である。誰からも後ろ指を指されることなく正直に生き、長寿社会に挑戦することも修行の一環であろう。私が教師の頃、卒業していく部員たちに卒業後の柔道との関わり合いについて問うたことがある。その中で「時間と場所さえあれば柔道を続けたい」と言われ、胸を熱くしたことがあった。しかし現実には実社会に飛び込んだとき、柔道衣を着る機会が無い人が多いのも事実である。ただ願わくば、道場で学んだ柔道精神を実社会でも活かせる人になってほしいと思う。"前途は長い。さらばゆっくり急ごう"(堀口大學)

 嘉納治五郎師範の著書に『青年修養訓』(全50章)明治43(1910)年刊がある。戦前の教科書としても採用され、中でも第2章「生れ甲斐ある人となれ」は、多くの人たちが愛読し座右の書としたと聞いている。また、第47章「日常の生活」には飲酒についての一説があるのも面白い。師範の飲酒観が分かり、また前途ある青年に対して実地的なアドバイスをしている様子も興味深いのでここに紹介しよう。
 酒の嫌いな人は、絶対に飲まぬがよい。好きな人は、衛生上経済上道徳上の三点に害なき範囲において飲むもよろしい。これは一般人についてであるが、今これを学生について考えてみるに、青年に酒は、火に火を加うるものなりといわれているほどであって、青年の飲酒は道徳上の失敗を醸しやすいから飲まぬがよい
 私自身は酒好きだったため、失敗も数多い。そしてまた多くの諸先輩の酒豪伝説を垣間見もしたし聞きもした。「酒は百薬の長」とも言う。酒と上手に付き合って、仲間の輪を広げ、人生を有意義に過ごしたいものである。

 戦後の柔道は紆余曲折あったものの、先達の弛みない努力により拡大、発展してきた。現在の状況を鑑みるに、施設は充実、指導陣は多士済々、環境は整っている。しかしながら、柔道人口の減少は著しい。少子高齢化社会やスポーツの多様化にも原因はあると思うが、減少は致し方が無いのであろうか。原状回復の安易な近道など無い。地道に一歩ずつ前向きに取り組むしかない。  勘案するに、少年柔道の振興に繋がる底辺拡大こそが柔道界における課題ではないだろうか。今、全国の講道館員は、自分の出来る範囲で手を差し延べ、そのお手伝いをしなければならない。
 温故知新、報恩感謝。全国の同志と共に「日本伝講道館柔道」の永遠の発展を信じて努めてゆきたい。

             (元北信越地区柔道連盟会長・元新潟県柔道連盟会長)
                          

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