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今月のことば

2021年11月

随想

北 哲郎


「新型コロナウイルス」の感染が、終息の兆しも見えない中、「東京オリンピック2020」が予定通り開催され、日本発祥である柔道の代表者が連日熱戦を繰り広げ、歴史に残る素晴らしい成績を挙げてくれた。数々の困難・重圧を乗り越え全力で重責を果した日本柔道選手団に感謝申し上げたい。
「県勢の輝き」薩摩の魂を揺さぶる
 柔道女子78kg級で出場した本県出身の濵田尚里選手、怒涛の寝技に目が離せなかった。順調に勝ち上がり、決勝は2019年世界選手権で完敗したマドレーヌ・マロンガ選手(フランス)と対戦し、得意の寝技で攻め立て相手の防御を一気に破り、1分9秒、崩上四方固で一本勝ちを収めた。勝敗もさることながら、その後の彼女の素晴らしい姿に感銘を受けた。畳を降りるまで表情一つ崩さず、相手に敬意を払う姿勢は、さすが「薩摩おごじょ」。勝っても奢らず、負けても挫けず、常に相手を尊重し敬意を表す礼法、柔道家の手本たる振舞いを示してくれた。「継続は力なり」、この成果は濵田選手の今までの努力の賜物である。心から「おめでとう」と申し上げたい。その直後から、私の電話が鳴りやまず、まるで私が金メダルを取ったような錯覚を起こすほど、毎晩の「孤独晩酌」に杯が進み「よか晩」であった。
 本県では「2020燃ゆる感動かごしま国体」の成功を期して、「武の国薩摩復活」を目指し10年計画で県柔道会が一丸となり取り組んでいたが、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となった。現在は、「特別かごしま国体」という名称で2年後の開催が決定し、着々と準備しているところである。昨年からのコロナ禍で、柔道の活動自体が低迷することを危惧したが、東京オリンピックで濵田選手の金メダル獲得に続き、全国高等学校柔道大会において男子81kg級東郷丈児選手(鹿児島情報高校)が本県男子初の優勝、また全国中学校柔道大会において女子52kg級岡元遙樺選手(財部中学校)が優勝した。この3人の活躍が県民に感動を与えて盛り上がり、回復の起爆剤になることを期待している。
 また本県では、1976(昭和51)年から柔道指導者講習会を県総合体育センターおよび本県柔道会が主催し、県内中学校・高等学校における教科体育、部活動およびスポーツ少年団等の柔道指導者の指導力向上と本県柔道競技の競技力向上を図る目的で、毎年5月の平日に2日間、全日本柔道連盟、講道館、他県内外の著名人等に講師を依頼して開催している。2018(平成30)年、本県は「明治維新150年」を迎え、県内ではNHKの大河ドラマ「西郷どん」の放映と相俟って様々なイベントで盛り上がる中、本県柔道会では、目前に迫った「燃ゆる感動かごしま国体」の成功を期すべく、同年1月6日の鏡開式において「薩摩柔道維新元年」と位置づけ、心機一転、決意を新たにした。この記念すべき年に当たり、指導者講習会の講師として山下泰裕全日本柔道連盟会長に講演をお願いしたところ、諸事ご多用の中、快諾していただいた。
 山下全柔連会長は講演前日に来県され、到着後に私と合流し西郷銅像を視察、西郷墓地の墓参をされ、翌日、県総合体育センターにて、県知事、来賓挨拶の後「薩摩柔道維新元年 夢への挑戦」という演題で90分間講演していただいた。講演は「嘉納治五郎師範が創設された柔道は本当に素晴らしい。柔道で学んだことを人生に活かし、人生の勝利者に」という言葉が印象的で、満員の会場は感動の渦に包まれ、盛大な喝采で成功裏に終了した。
東京オリンピック2020雑感
 東京オリンピック2020は、開催国としての責任と多大な成果を残し、大成功のうちに無事終了した。無観客については緊急事態宣言下での開催でやむなきことと思うが、果して競技する選手の心情は如何なものだっただろう。しかし選手たちは、多くの重圧の中で成果を残し立派の一言である。残念だったのは、男女混合団体戦で敗れたことである。自国開催であり、無観客でなければ等々、思いを巡らすほど悔しいひと時であった。
 服装については、さすが世界を代表する選手が集う大会、帯もしっかり結び、緩んだら自身で結びを確認し、裾が出るとすぐ直す等、柔道衣の乱れを全く感じられず、素晴らしかった。ただ髪留めを試合中何回も結び直す女子選手が見受けられ、気になる場面であった。
 礼法等については、いかがなものかと思う場面が散見され残念であった。数年前、本県の国際交流でナポリを訪問し、スポーツクラブに通う少年少女たちが「日本の柔道の持つ礼儀作法、規律精神等への憧れ」を柔道を志した動機と知って驚いたことを思い出し、これから柔道を志す子どもたちに与える影響が心配になった。
結び
 本県柔道会では、広く県民に柔道の魅力を理解してもらい、低迷している柔道人口増大策の一環として、少年大会の選手宣誓のあと、選手全員で薩摩藩の「郷中教育」にある薩摩三訓をアレンジした、「薩摩柔道ルネッサンス宣言」を唱和し、大会を開催している。
 わたしたちは、柔道を通して
 一.立派な人間になります。
 一.弱いものをいじめません。
 一.うそをつきません。
 一.礼儀を正しくします。
 一.自分に負けません。
 この宣言は、「第9回全国小学生学年別柔道大会」の際、本県選手全員で唱和し紹介したところ、称賛を得た。現在柔道は、競技面が注目されがちだが、人づくり柔道、いわゆる「人間教育」が原点にあることを忘れてはならない。我々柔道指導者は、嘉納師範の「精力善用・自他共栄」の原点に立ち返り、柔道の普及発展に寄与する責任と、使命があることを忘れてはならないと思う。
                (公益財団法人鹿児島県柔道会会長)

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