今月のことば
2008年01月
年頭に当って
嘉納 行光
平成二十年の正月を迎え、心から新春のお慶びを申し上げる。
昨年を振り返えると、五月にはクウェートでアジア柔道連盟(JUA)総会とアジア柔道選手権大会が行われ、又九月にはブラジルで世界柔道連盟(IJF)総会と世界柔道選手権大会が開催された。正しい柔道の世界への普及発展を願う我々としては、国際的な公式の場で日本が発言できるポストを確保する事が必要であると云う従来からの方針に従って、JUA総会に於ては会長選での日本代表候補の当選、又IJF総会では日本代表の教育コーチング理事の再選達成が大きな目標であった。併し結果は思っても見なかった惨敗に終った事はご承知の通りである。立候補をお願いした佐藤宣践、山下泰裕両氏に対しては相すまぬ気持を禁じ得ない。
思えば柔道の国際化の初期の段階に於ては各国柔道連盟、大陸柔道連盟、国際柔道連盟の組織を動かす人々は、皆柔道に親しむ柔道人であり、当然の事乍らお互いに柔道を愛好しその発展を願う共通の目的を持っていた。併し世界の柔道として組織も規模も加盟数も拡大して行くにつれて、本来の柔道の本質から逸脱する傾向も見られる様になって来た。柔道の有する教育的精神的体育的面が忘れられ、競技面偏重となり勝負にこだわる風潮も出現した。その様な過程の中で肥大化した組織を動かす為には、政治的手腕能力が求められ、又同時に組織として成長したこれ等連盟のポストへの魅力も増大した事から、本来の柔道精神を正しく理解していない人達が数多く関係する様になった。従って柔道を主体に考える本来の姿から、政治的手腕や政略がとってかわり、特に選挙に際しては金銭による懐柔策が票を得る最も効果的安易な手段として用いられる様にもなって来た。この様な世界の趨勢を承知しながらも、我々は選挙対策としては従来の通り、柔道人であるならば必ず通ずるであろうと云う思いの下に、柔道の発展についての日本の活動方針への理解と支持を基調とした運動を展開した。そして最早その様なオーソドックスなやり方では通用しない情況に大きく変わった事を、得票数字がはっきり示す惨敗と云う事実によってはっきりと知る事となったのである。
この様な結果に対し、我々は当然今後の対応を考えなければならないが、私は基本的には、今迄の方針を再確認しこれを是とするならば、いささかの変更も必要ないと考える。今迄の方針とは、嘉納師範の理想とする柔道の普及発展の実現化をめざす事であり、我々の先駆者から代々受けつがれて来た使命であり、この実現の為には柔道の本質を護り、日本が中心となって頑張らなければならないと云う信念と誇りでなければならない。今こそこの基本的な方針にそって、具体的な活動を展開すべき新たな時期の到来とも考えられる。 現在国際的な場での日本のポストは、川口孝夫氏が選ばれているJUA審判理事のみとなったが、今後のIJF、JUAのポストについては、我々の主張が理解されない情況であれば、無理にポストに固執する必要はなく静観しながら周囲の情勢を良く見極めた上で対処すべきあろう。
今回の結果は我々にとって決して愉快なものではなかったが、皮肉と云うべきか、相手側から見た場合、政治的その他色々な理由から日本と敵対する行動を取ったが、日本を敵視した訳ではなく日本と良好な関係を保ち、日本の協力を求めたいと云う意向が強く内在している事を我々は理解しなければならない。これは日本で生まれた柔道の長い歴史と実力が大方の世界の柔道人に抱かせた敬意と信頼をこめた自然の感情と考えるならば、我々はこの気持を大切に受け止めるべきである。そして我々は今後広い視野に立って、冷静に客観的に是々非々をはっきり表明し、非とするものについてはその理由を理論的に説明する事も必要である。
今迄我々はIJF、JUAのポストに深く係わって来たので、これに対する仕事量の負担にはなみなみならぬものがあった。全柔連事務局の国際課を全面的にサポートする為、講道館の国際部も大半のエネルギーをこう云った業務に注入せざるを得ず、本来講道館がやるべき国際活動で手が廻らない部分も少なくなかった。併し、今やJUAの審判理事に関係する業務以外解放された事から、今後国際関係については、講道館、全柔連が夫々本来の業務に重点的に専念できる情況となって来た。
講道館としては、今でも実施している事ではあるが、講道館国際柔道セミナーや海外各国への巡廻指導の一層の充実徹底等々地道な交流を通しての信頼関係の拡大と正しい柔道の普及に努める事になろう。又全柔連は日本の強化選手の育成を最重要課題として取り組んで頂きたい。アテネオリンピックの際の日本選手の活躍は本来の柔道の醍醐味を大衆にいやが上にも知らしめたが、昨年の世界柔道選手権大会では不運な面もあって十分な実力を発揮できなかった。併しこれを反発のバネとして、北京オリンピックにおいて日本代表選手の強靱な精神力と切れる技と立派な試合態度に裏うちされた活躍を強く望むものである。選ばれた選手は勿論の事、強化を中心とした関係者の苦労と重圧は大変なものと思われるが、高い理想に向かっての使命と考えて是非共最大限の努力をお願いしたい。
昨年は又、十月に講道館柔道「形」国際競技大会が初めての世界的な試みとして講道館の大道場で開催され、その後十二月には嘉納杯が男女共同による第一回目の大会として嘉納治五郎杯東京国際柔道大会の名称の下に開かれ、詳細は割愛するが、夫々昨年の意義ある大会として関係者の努力によって大成功裡に終える事ができた。
本年は、嘉納治五郎師範が昭和十三年五月に太平洋上で逝去されてから七十年に当たる。講道館では四月二十八日の高段者大会の試合前に、大道場において式典を行い、夕方試合終了後には、後楽園のドームホテルで師範を偲ぶ会を開催する事になっている。
今年も国内外で何が起こるか分らないが、少なく共柔道界だけは平和でお互いに協調し合って行く年であってくれればと願うものである。
(講道館長)
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