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今月のことば

2014年10月

少年柔道を思う

野村基次

 最近の新聞紙上でも柔道人口の減少が報じられましたが、奈良県柔道連盟においても減少は顕著に現われています。その大きな原因は少年柔道の人口減少にあると考えられます。ここに私の柔道人生で経験したことや、今少年柔道を指導している立場でその思いを記させて頂きます。
 私が現在指導している、豊徳館野村道場は、昭和15年に父・野村彦忠によって開設されました。父は信仰心に篤い人で、また、嘉納師範の柔道精神に深い感銘を受け、青少年の健全育成のために師範の修心の教えを最重要とした指導を行いました。この道場で、私、弟の豊和、息子の長男忠寿、次男忠宏が生まれ育ち、世のため人のために尽すことの大切さを教えられました。そして、私は天理大学卒業後、天理高校に奉職し、38年間の柔道指導を全うし、現在、奈良県柔道場協会会長、奈良県柔道連盟会長を務めております。天理高校監督時代も父の教えを守り、私が悟されたように選手が試合に勝てない時は自身の努力と徳がないため勝利を与えてもらえない、勝ちたかったらもっと努力し徳を積みなさいと伝えてきました。父から受けた立派な人を育てる指導、その精神は、自身の道場で子どもたちを指導している現在も、変わらず私の指導指針となっています。私の道場はあまり強くはないけれど人数は多く、柔道が好きで楽しくてたまらない子どもが大半です。その子どもが中学、高校に進学し全国の強豪選手の中で活躍しています。
 私は、少年柔道の指導者の立場から多くの疑問や問題点を感じています。例えば、全日本柔道連盟には少年柔道の統括組織がなく、全国規模で行われる少年柔道の会議も全日本柔道少年団が年に1度開催する会議がある程度です。そのことを知り、なぜ日本の柔道界に一番大切なはずの少年のための統括組織が確立されていないのか大きな疑問を感じました。オリンピックや世界選手権ばかりに目を向けず、世界につながる選手のスタートの場である少年柔道の発展と育成こそが大切ではないでしょうか。奈良県では30数年前、柔道場協会が設立され、県内全道場が加盟し活動と運営を行っています。柔道場協会がない時代は少年柔道の活動には主体性がなく、全て柔道連盟の方針に従って活動するのみでした。しかし協会が設立されてから、全道場団体が加盟することで規約によって秩序が保たれ、主体的に大会を運営できるようになりました。
 この奈良県の例のように、全道場団体が協会に加盟し規約に則った活動をすることで、正常な指導も運営も出来ることと確信しています。全柔連も1日も早く少年のための統括組織を確立させ、少年柔道の発展と育成に善処して頂きたいと思います。県柔連および柔道場協会としても強く要望する次第です。全柔連の指導があれば少年柔道の大会のあり方、各都道府県の抱える問題点、少年柔道人口の減少問題等も解決出来ると信じています。また、各地で少年柔道を指導されている先生方にも問題点、疑問点について意見を述べ合う機会があれば幸せと考えております。
 最後に私の考える少年柔道に関する問題点等をこの機会に述べさせて頂きます。
 第1に全柔連に少年柔道の統括組織が確立されていないこと、そのため各都道府県にも少年柔道連盟(仮称)が整備されず個々の活動しか出来ず多くの問題が発生していると感じます。第2に個人的な大会が乱立し、何の規制もなく勝つための柔道に走る傾向につながっていると感じます。勝つための練習が厳しすぎ、また勝たなければ指導者から厳しい指導を受けるため、少年たちが柔道が好きになれない、楽しく思えないことも柔道人口減少の原因の1つではないでしょうか。第3に「講道館柔道」嘉納師範の柔道理念、柔道修行の目的「道」を理解し青少年の指導に当る必要があること、それにより保護者はもとより一般社会の人たちにも柔道の選手は立派であると評価が得られ、柔道は大きく発展すると確信します。また安全教育、審判講習、強化練習、諸々の講習会などを主体的に少年柔道の統括組織が実施することにより、指導者の資質向上を図ることにもなり、選手との意思疎通や信頼関係も一層深まり充実するものと考えます。
 少年柔道の統括組織が1日も早く実現されることを願って止みません。

(奈良県柔道連盟会長、奈良県柔道場協会会長)

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