今月のことば
2011年02月
強化と普及
小野沢 弘史
柔道は情熱あふれる先達が心血を注いで活動した結果、日本で創始されたスポーツとして、オリンピック競技になりました。オリンピック競技になった1964年頃から急速に国際化・競技化が進展しています。現在は国際柔道連盟(IJF)に200ヵ国・地域が加盟するまでに発展したことは喜ばしいことです。国際オリンピック委員会によれば、柔道の加盟国・地域数は陸上競技やサッカーなどに次いで8番目です。
柔道は日本文化の精髄を具現化したものとして、世界中に普及し良いイメージを広げ、今や世界スポーツ文化の一つに定着しました。世界各地に根付き、柔道家が増えることは国際交流が活性化して、信頼関係を築く一助になるなど意義深いことです。
IJFは柔道をメジャーにするため、一昨年より世界ランキング制を導入しました。年間約30の国際大会の成績をポイント化することにより、選手のオリンピック出場資格やシード権を決定するものです。
日本柔道は強くなければなりません。日本選手が姿勢よく組んで、体を捌き切れ味の鋭い「技」を発揮して、輝かしい成績を上げることが、本来の柔道の魅力を世界に示すことになります。全日本柔道連盟(全柔連)は、1961年に国際強化を始動させてから、強化体制・方針・対策・計画など、より強い選手の育成を模索し今日に至っております。
今年はパリで世界選手権、来年はロンドンオリンピックです。日本に追いつき追い越せ、と諸外国の強化が年々強まり、日本選手が国際舞台で活躍することは容易ではありません。
柔道の強化は、普及と一体をなすことが必要です。長い伝統の中で日本は、全国に柔道場があり老若男女が柔道に親しんでいます。指導者の多くは熱意に溢れ、「理」に適った技術で地力をつける指導法を伝承しています。単に相手を倒せばよい、勝てばよいということではなく、柔道発祥国として、技で「一本」を追求する気概を持つ選手の育成に、強化委員会がその中心を担い取り組んでいます。
柔道界では従前より組織の土台にあるものは指導者の志と力量である、という考えに基づき、資質向上を図るために指導内容・指導法や栄養・医学・心理面などのさまざまな研修(講習)会を開催してきました。一昨年、さらなる指導者養成が最重要課題であるという認識から、全柔連は「指導者養成プロジェクト」を立ち上げました。「少年柔道指導者」、「強化柔道指導者」、「女性指導者」などの研修会を催し、指導者として必要な知識や情報を共有するとともに、日本柔道の将来を見据えて、長期的な視野に基づいた具体的な「指導者養成システム」の議論を重ねています。
柔道の持続的な発展を考えたとき、柔道の持つ伝統を継承しつつ、世界的な視野との調和を図り、柔道の価値をより高めるように推進しなければならないと思います。
いよいよ中学校武道必修化が2012年度から実施されます。中学の保健体育の授業において1、2年生がこれまで選択科目だった「武道」と「ダンス」を必修として、「体つくり運動」「器械運動」「陸上競技」「水泳」「球技」及び知識に関する領域すべてを履修させることにしたものです。
日本人は誰しも一度は、伝統文化である武道を経験することになり、その中でも柔道は全国で約70%の中学校において選択される予定です。相手の息づかいが伝わる近い間合いで組み合う柔道は、身体と身体が触れ合う機会の少ないこの頃、他人との繋がりの切っ掛けになるなど絶好の教材になることでしょう。
柔道界には追い風でありますが、中学3年そして高等学校においては選択科目となります。中学1、2年生の必修時に安全で興味深く、生徒から好感をもたれるような授業が行われるよう、既に全柔連は柔道を専門としない体育教員を視野に、教科授業づくり「教本」と「DVD」を発行し、授業の導入や興味づけのための研修会を開催しています。さらに、授業を補完する外部指導者派遣制度の確立を目指すなど、中学校武道必修化を積極的に支援しております。
近年、国内外での「形」の大会が活発になってきています。全日本形競技大会は1997年から、世界形選手権大会が一昨年より開催されています。
柔道における稽古の「形」と「乱取」は、「文法」と「作文」の関係に例えられるように一体をなします。柔道技術攻防の基本形態の原理を学ぶことが出来る「形」の重要性を考えると、私たちは後世に正しく伝える責務があります。
また高齢化社会になり、健康増進や人生を豊かにするためにも生涯柔道の必要性はより高まっています。柔道界では以前から全国高段者大会や、全国各地でのさまざまな高段者大会も催し、中高年の柔道家のための環境を整えてきました。
IJFも世界グランドマスターズ大会などを昨年から開催し、年齢別・体重別試合の場を提供し、柔道家の交流の輪を拡げています。
柔道には心身を鍛え、技を磨く過程で人格を形成し、社会に有為な人材を輩出するという理念があります。事実、抜きん出た個性、人間性で政界や実業界などのリーダーとして活躍した先輩が数多くおられます。
我々は、柔道を通じての人間教育の使命をしっかりと心に刻み、日々精進することが重要と考えます。
(全日本柔道連盟専務理事)
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