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今月のことば

2004年10月

「とも」を取る

千葉  翠

 恰度アテネ五輪が終わった。柔道は大躍進で嬉しい限りである。関係者の皆様に心からお祝いを申し上げます。
 そしてこんな時こそ軸はどこを目指し、「とも」は定まっているかを考えたいと思う。
 柔道ルネッサンス運動が提唱されて以来、その重要性が認識され、各地の連盟での色々な取り組みが紹介されている。
 岩手県柔道連盟としてもその趣旨を体し、「親子ふれあい柔道フェスティバル」の創設をはじめ、講習会などの施策を実施しているところである。
 施策の実施に当たっては、一般的には「ヒト、カネ、モノ」が要るが、人、金、物があれば全てOKという訳でもないだろう。そういうことから、今回は目標設定のあり方について個人的考えを述べてみたい。

 岩手県の国立公園三陸海岸は観光地であるが、地元住民にとっては磯漁の大切な資源でもある。
 その磯漁をしている漁師さんに聞いた話である。その漁師さん達が使う船はサッパ船と呼ばれる全長六メートル程の笹の葉型の一人乗り小舟である。主にウニ、アワビを始めとする漁に使う手こぎ船である。
 今は小型船外機が普及しているが、以前は櫓一本で前後左右自在に船を操るのが一人前の条件でもあった。こぎ手が下手だと船は波風に振られて漁が出来なくなるのである。
 その小舟を操る要領の一つについて教えてもらったのである。
 それが「とも」を取る、ということである。
 このサッパ船は舟の中央に座った漁師が軸(へさき)を背にして漕ぐのであるが、直進するときは恰度後ろ歩きの形で進まなければならず目的地点に直行するのは結構難しい。 自分では真っ直ぐ進んでいる積もりでも、実は波に振られ、風に吹かれ、更には櫓を引く両腕の力の差でも直進しないのである。
 そんな舟をどうして直進させるか、それは以下の要領による。
 先ず自分の目的地点を決めたら軸(舳先)をそこに向ける。同時に目線を戻して自分の座っている位置から見た船尾(とも)の延長線上に目印を探す。目印を決めたら後は「とも」(船尾)と目印が一直線上から離れないように舟を漕ぐ。 「とも」を取るとは、こういう作業を指す。これによって舟は安定して進むのである。 聞けば簡単なようだが、いざ舟を漕いで見ると、これがなかなか難しい。
 柔道の道も同じことが云えはしまいか。日常の修行が馴れによって精力善用でなくなったり、自他共栄を忘れて己の勝ちしか考えない人になってはいまいか。
 柔道の普及振興に努める時、柔道にもある筈の「とも」を取ることを忘れずやっているか考えている。

(岩手県柔道連盟会長)

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