今月のことば
2023年1月
年 頭 所 感
講道館長
上村春樹
令和5年を迎え、謹んで年頭のご挨拶を申し上げます。
昨年は講道館創立140周年の記念すべき年でした。通年に亘り盛り沢山の行事等が予定されていましたが、長引くコロナ禍により、その内容、参加者等は大きく制限を受けました。しかしながら、開催の日程等に変更はありましたが、関係各位が実施内容を工夫し、参加者共々感染症対策を万全にし、良く頑張り全ての行事をやり遂げてくれました。
昨年2月27日に安部一郎十段が99歳で、10月21日には大澤慶己十段が96歳で逝去されました。安部十段は、欧州を拠点に指導経験を積んだ後、広く海外に目を向けて柔道の普及に尽力され、豊富な経験と広い視野をもって、柔道の国際化に貢献をされました。大澤十段は小柄ながら、そのスピードと変幻自在な技を武器に大柄な選手とも対等に戦ったことから、今牛若丸と称賛されるなど、小よく大を制する柔道の神髄を体現されていました。2人の十段は、前年に逝去された醍醐敏郎十段と共に、90歳を超えてからも、寒稽古、暑中稽古、講習会などに参加して、自らの修行と後進の指導に努めておられました。正に自他融和共栄の境地にあって、後進の範となってくださっていただけに、残念でなりません。
『柔道』第1巻第7号において、嘉納師範は「柔道修行者に告ぐ」という題で巻頭言を執筆されています。その中で、師範は「講道館柔道が文武の教であるといふことは、講道館創設以来余が絶えず修行者に向つて説いて居る所であるが、柔道はもともと技術より入つて道に進むものであるから、多數の者は技には早く親しむが、進んで道を味ふに至る迄には尚大に修養を要する」と述べています。そこで、先達は、修行者が技を習得する段階で、身体を鍛錬しながらも、精神の修養にも重きを置いた指導を心掛けていたようです。私たちも原点に立ち返り、より多くの人に、柔道とは何かを言葉で簡潔に説明できるように自身の理解を深めてゆかねばなりません。普段の修行を通じて伝える技を磨き、伝わる言葉を身に付けることが柔道の普及に向けた第一歩です。
乱取の形といわれている「投の形」や「固の形」では、それぞれ15本の代表的な技の理合いを学びますが、他の投技や固技を身に付けるためのヒントがあります。
技を習得するには、まず、その技のカタチを知り、ゆっくりと正確に反復することから始めます。相手の崩し方と技に入るまでの作りなどの、動作を正確に反復する練習法が「打込」ですが、この練習を繰り返し、量をこなしているうちに、理合いも学ぶことが出来、スムーズにより力強く、素早く技に入ることが出来るようになります。これによって、技のカタチを知っているという単なる知識から、技が出来るようになるという技術の体得に繋がるのです。そして、それぞれの体力、体格、経験に応じて、組み手の位置や組み方、入る位置やタイミングなどに工夫を凝らしながら、かつ、前後左右に動きながら掛けるように練習することで乱取や試合にも生かすことができるようになります。
柔道の修行には、形、乱取、講義、問答がありますが、それぞれが独立して機能しているのではなく、相互に関連をもっているのです。
国際柔道連盟(IJF)が昨年11月、日本で初めてのIJFアカデミーを講道館で開催しました。このIJFアカデミーは、2013年から始まったIJFが全世界の指導者の養成、レベルアップを目指した事業で、国際審判員や各国コーチには受講、修了が義務付けされています。内容は、WEB講習で柔道の歴史や技術概論を学習し、知識に関する試験に合格した者だけが実技講習を受けることが出来るという大変厳しいものです。約1週間の実技講習では、IJFの協力のもと講道館で制定した「100の技」全ての実技、「投の形」について、取と受を実際に行い、投げ方、固め方、受け方からその理合いなどを学びます。これまでに世界各国で99回開催され、137ヵ国の2351名が修了しました。
講道館で制定した「100の技」の映像については、世界中で視聴されていますが、他にも、それぞれの技の理合いや相違点などを分かりやすく解説するための映像も準備しているところです。また、後世に伝え繋いでゆく「名選手の得意技シリーズ」として、過去のオリンピックや世界選手権大会のメダリストを中心とした選手の得意技の映像を編集し、昨年からYouTubeで発信しています。この他にも受身や体捌き等の基本技術の指導方法などについての映像も発信しています。今後も、立ち姿勢、寝姿勢、投技、返し技とは何か、固める、極めるとは何か、抑え込みの条件とは何か等、柔道の本質を発信してゆきたいと考えています。
段位制度について、国内では110の段位推薦委託団体の皆様と共に、また海外においては16の講道館コミッティを活用し、更なる柔道の正しい普及振興に努めます。ただ単に段位を取得させることが目的ではなく、修行の成果として段位を取得するという文化をしっかりと根付かせ、段位が独り歩きしないようにしてゆきたいと思います。講道館は、国内外に門戸を開いています。柔道の聖地であるとともに、全ての柔道修行者にとっての原点であり続けたいと考えています。
また、形や基本指導、審判講習等の「講道館講習会」や、東建コーポレーション株式会社の協賛のもと開催している「講道館青少年育成講習会」を継続して実施し、正しい柔道の普及と地域の柔道の活性化に努め、更なる充実を図りたいと思います。
本年は、新型コロナウイルス感染症が収束して、私たちの生活が通常に戻り、講道館の歴史と伝統を受け継ぐ様々な行事や柔道を通した交流を盛んに行い、講道館創立150周年に向けた一歩を踏み出したいと考えています。
年頭に当たり、嘉納治五郎師範が創始された講道館柔道の原点に立ち返り、「競技としての柔道」の発展と共に、「教育としての柔道」「人づくりとしての柔道」を地道に粘り強く推進し、先達が築かれた講道館柔道の伝統を受け継ぎ、更なる歴史を積み重ねるべく、「精力善用」「自他共栄」の実践に努め、国内外に講道館柔道の精神とその本質を発信してゆく所存です。
館員の皆様には、本年もご指導、ご支援、ご協力の程、よろしくお願いします。結びに今年が皆様にとって良い年になりますようお祈り申し上げます。
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