今月のことば
2013年04月
柔道と私
常田享詳(つねだ たかよし)
私は国立公園鳥取砂丘や大山、二十世紀梨や松葉ガニ、そして因幡の白兎(古事記)やゲゲゲの鬼太郎、名探偵コナン等「マンガ王国」を売りとする鳥取県の鳥取市で育ちました。
私は医薬品の卸や販売を業とする薬局の家に生まれ、厳しい時代(昭和18年生まれ)でしたが、お陰でひもじい思いはしなかったように思います。小学校も中学校も鳥取大学の附属校(石破茂自民党幹事長は同窓)でしたが、柔道部はありませんでした。父は薬剤師でしたが、大学時代にボクシング部のキャプテンだったこともあり、薬局の裏にボクシングジムを開設し、鳥取県ボクシング連盟会長としてボクシングを通して戦後の青少年健全育成に一生懸命取り組んだ人でした。その様な父でしたから、薬局で働く人たちに甘やかされて育つ私が心配だったのでしょう。小学校4年生の頃から柔道の町道場にやらされ、不本意ながら柔道を習うこととなりました。この時が柔道との出会いです。
中学校に進むと魅力的な運動部がいろいろとあり、私は野球部に入部しましたが、父は喜んでいました。おそらく、運動部に入ったことで安心したのでしょう。レギュラーにはなりましたが、あまりパッとしない3年間でした。中学校で野球部、高校では柔道部で活躍した兄の影響で私も県立鳥取東高等学校進学と同時に柔道部に入部、1年生の時は散々でしたが、2年生で初段、3年生で二段となり団体戦で大将をつとめ、全国大会に出場することができました。東海大学の佐藤宣践先生やオリンピックで金メダルに輝いた岡野功氏は同期です。高校時代に柔道と生徒会長を経験したことがその後の私の人生に大きな影響を与えたことは間違いありません。
大学は東京薬科大学に進学しました。男子校で、しかも昔柔道部が嘉納治五郎師範の指導を受けた関係から、学長始め柔道に熱心なこともあり即柔道部に入部、後に主将(四段)になり卒業、国家試験に何とか合格し父と同じ薬剤師となった次第です。大学時代の思い出の1つが東京オリンピックです。大学2年生の昭和39年、観戦していた私の目の前で神永昭夫選手がアントン・ヘーシンク選手に敗れ、茫然自失で帰路についた日のことは今でも忘れません。
9年間、製薬会社のサラリーマン生活の後、30歳の時に鳥取に帰り家業の薬局を経営することとなりましたが、先輩や友人たちの薦めもあり、その後市議(1期)、県議(3期)、参議院議員(2期)の25年余の間、議員活動に従事させていただきました。橋本聖子スケート連盟会長は参議院の同期です。また、その間に鳥取県柔道連盟副会長(県議時代)をしたことから、国会議員を辞めた後に、鳥取県の会長(現在に至る)と2年間ですが中国地区の会長もさせていただき、七段にご推挙いただきました。
県柔連の副会長の頃(昭和61年)に鳥取国体を開催することとなり、選手の強化や県民への柔道の啓発に関し、東海大学の佐藤宣践先生を始め、金メダリストの山下泰裕先生や斉藤仁先生には再三鳥取へ来て頂き、力強いご支援をいただきました。改めて心から感謝申し上げます。
平成7年から12年間、国会議員をさせていただいた時に、参議院自民党の有志が集い「柔道議員の会」を立ち上げました。東大柔道部出身の片山虎之助先生や舛添要一先生、そして現農林水産副大臣の加治屋義人先生を始め30名近くが参加、私が事務局を受け持ち「柔道と人づくり」をテーマに山下先生や講道館の先生方に講師をお願いして研修会を行い、合わせて「ダックスの会」という親睦会も立ち上げ、「20名いれば自民党総裁選に柔道の議員を出せるぞ!(冗談ですが・・・)」と大いに盛り上がったものです。ちなみにダックスとは短足の代名詞です。「俺は短足ではない、一緒にするな!」と先輩たちのお叱りをいただいたことも今となっては楽しい思い出です。今、高校時代の柔道仲間と再三「ダックスの会」をやっています。
近年、県柔連の会長として全柔連の評議員会に何度か出席させて頂く中で、全柔連の公益法人化の話を聞きながら、私は一抹の不安を感じておりました。勝利至上主義とも思える一部トップ選手の驕りともみえる態度について、苦言を呈したこともありました。実は私も現在、文部科学大臣主管の公益法人の理事長をしている経験から、全柔連は公益法人としてこのままで本当に大丈夫なのか、中学校の武道必修化への対応、事故対策は大丈夫か、国際化する中で宗主国である日本の柔道人口の減少に歯止めはかかるのか、末端を支える地方組織(特に小さな県)の苦しい実情を理解しているのか等です。
私の感じた一抹の不安は年明けと共に現実となって表れました。金メダリストの準強姦事件の有罪判決、そして女子柔道代表監督の暴力、パワハラの発覚です。特に私が心配するのは、中学校武道必修化の一翼を担う公益法人として、全柔連がどう反省し、どう出直すのか、文部科学大臣所管であるだけに責任は重いと思います。また、中途半端な対応ではいずれ大きなつけが回ってくると心配しています。「力は人を威圧するものではなくて世の為に用い、互いに尊重、信頼しあえば自他共に栄える」嘉納治五郎師範の教え「精力善用、自他共栄」をお題目に終わらせることなく、同時に嘉納師範の「形」「乱取」「講義」「問答」の4つの修行の在り方についての教えを、これからの日々の活動の中で伝承していきたいと心新たにしているところです。私も本年で古稀(70歳)、「原点にもどろう!」を肝に銘じ、筆を擱きます。
(鳥取県柔道連盟会長)
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