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今月のことば

2023年10月

時代の流れ
   柔道と共に

岩崎 満

 2023(令和5)年4月、一般社団法人北海道柔道連盟会長に就任しました。コロナ禍の影響で、これまで多くの行事が延期や中止を余儀なくされてきましたが、漸く日常に戻りつつある中で、北海道各地区の大会や講習会等にと多忙な日々を過ごしています。北海道柔道の諸先輩方が築き上げた柔道人生の足跡を、時代の流れと共にその意思を受け継ぎ、一層の奮起をして正しい柔道発展に情熱を燃やし、新体制の下、共に力を合わせて北海道柔道発展に全力を傾けていきます。
 今年度は、全国高等学校総合体育大会第72回全国高等学校柔道大会が36年振りに「轟かせ魂の鼓動、北の大地へ、大空へ」のスローガンのもと、札幌市(北海道立総合体育センター)で8月8日(火)から12日(土)までの5日間開催されました。
 全国各地から選手、監督並びに保護者、関係者の皆様をお迎えし、盛大に開催されました。全国各地の厳しい予選を勝ち抜き、本大会への出場された選手の皆さんおめでとうございました。またそれを支えてこられたご家族、指導者の方々に対し、心より敬意を表します。この度の全国大会を機に北海道高等学校柔道の発展と競技力向上を期待いたします。

時代の流れと、【柔道体制】高校柔道と大学学生柔道―育成と成果
 私は、北海道枝幸町出身(オホーツク海に面した、海の幸が豊かな町)です。天理大学に入学し、厳しい柔道環境に専念することが出来たのは、恩師、先輩、同期生の言葉が大きな力となりました。そして、私なりに柔道と将来を考え進路を決めた強い意志もあったと思います。1965(昭和40)年、天理大学卒業の年、創立1年目の旭川日本大学高等学校(昭和45年、旭川大学高等学校に変更される)に赴任の際には、当時の平通尊旭川柔道連盟会長(お寺の住職)が天理大学の道場まで来られ、旭川の高校で柔道の指導をと強い勧めがあり、故郷でもある北海道の大地で、精一杯努力してみようとお引き受けしました。
 高校には道場はなく、放課後体育館に畳を敷き、生徒は入学して初めて柔道をする生徒が多く、私は重責と不安が一度にのしかかった中で、基本的な動きと体力作りに練習の大半の時間を使いました。練習が厳しさを増す中で、柔道部を辞めたいと申し出る生徒も多数おりました。その際は「辞める、そうか大変だな。それでは今日1日だけ練習してみるか・・・」など、辞めたいという気持ちを頭から否定せず、しかしすぐに承諾もしないといった外柔内剛の対応を心掛け、生徒たちに柔道修行の継続を促しました。時折辞めたいという高校生が出た一方、高校で柔道の修行に専念したいという中学生も多数入部してきました。1967(昭和42)年、厳しい練習の成果が花開き、念願の旭川地区大会で優勝することが出来ました。その年、網走市で開催された北海道大会では、選手が練習の成果を充分に発揮し決勝に進出しました。北海高等学校に敗れはしましたが準優勝という成績を残し、富山県で開催された第16回全国高校総体に出場することが出来ました。この大会に、当時の学校長であった原田信夫先生が応援に来てくださり、選手1人ずつに、「おめでとう。ご苦労さん」と言葉をかけてくださいましたことは、今でも私の脳裏に感激となって強く残っています。また、全国大会では同じ宿舎であった北海高等学校柔道部監督の石川勝一郎先生の部屋に呼ばれ、熱心に何冊もの指導ノートを見せてくださりながら柔道の指導を受けたことに心から感謝しております。
 ここからが苦難の道のりでした。優勝杯に手が掛かりそうになりながら、もう一歩の壁を突き破れずに何度も苦汁を味わい、悲運を幾度となく経験しました。私も指導の中で、勝負の厳しさを経験する度に、柔道から逃げたい気持ちになりましたが、諸先生方、保護者の方々、教え子たちから強い励ましをいただき、「自分に負けるな」の精神で部員と一丸になり、応援してくださる方々の期待に応えようと意気に燃えました。日々の稽古は朝6時からグランドでのトレーンングに始まり、放課後は道場で厳しく稽古に励みました。部員たちが目的達成のために自覚ができるよう、よく稽古の中で「こちらが苦しい時、相手も苦しいぞ」と励まし、意欲を持たせ、その中で輝かしい伝統を作り上げてきました。北海道予選では1975(昭和50)年に函館で開催された高校総体北海道予選大会での初優勝を皮切りに、1986(昭和61)年、1990(平成2年)年に男子、1991(平成3)年と1992(平成4)年の男女での優勝を始め、栄光の歴史を刻むことができました。当時の教え子には村瀬秀行先生(旭川大学高校・早稲田大学卒業)など、現在でも連盟の仕事を支えてくれる者が多くいます。私は高校を定年退職し、次は旭川大学で学生柔道指導に専念することになりますが、高校・大学指導者として出会った多くの方々に、この場をお借りして心から感謝申し上げます。
 大学では学生の精神面の向上指導、柔道の技術向上指導にと、平日は18時から、土曜・日曜日は9時から2時間、休みなく稽古をしてきました。教科だけでなく、2006(平成18)年には旭川大学柔道部ボランティア活動(子供見守隊)を発足し、地域の子どもたちに安全な下校を提供する活動も行いました。当時の大学部員は少数でしたが、6人いた女子部員の主将の言葉が私を勇気づけてくれました。「チームメイトだが全員がライバルである。各人が強い気持ちを持ち、高い目標を立てて、私が試合に出て勝つんだ!」。彼女の稽古から伝わってくるその姿勢に、私も負けていられないという気持ちにさせられました。その努力は実り、2007(平成19)年6月23日に日本武道館で行われた全日本学生柔道優勝大会(女子3人制)では決勝戦に進出し、埼玉大学を3対0で破り優勝することが出来ました。
 終わりになりますが、柔道を経験され社会で活躍される教え子の皆さん、柔道を続けてきた精神のもと、これからも頑張っていただきたいと思います。私自身も指導する中で、勝つことの難しさを知ると共に、選手と一体となって試合に向かっていく精神力を作り上げ、常に相手より勝る技術、体力、個性ある柔道を目標に、稽古を積み重ねてきました。多くの経験の中で、指導者が素晴らしい競技歴を持っていることが必要条件ではなく、部員と共に汗を流し、時には寝食を共にして部員の性格を掌握し、常に勝負に対する情熱を失うことなく、部員とコミュニケーションを密にすることが信頼関係を育む必須条件だと思います。厳しい稽古は部員との根比べのようなものです。当時の部員たちは大変だったと思いますが、負けることなく日々の稽古に懸命に取り組んでくれました。多くの卒業生が厳しい社会の中で、逞しく活躍してくれていることが何よりの励みです。稽古に励んだ日々、培った強い精神力を胸に社会を生き抜く強さとして頑張ってほしいと思います。
 私も柔道で培った精神で、北海道柔道の発展とこれからの子どもたちの育成に頑張ります。
      (一般社団法人 北海道柔道連盟会長)

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