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今月のことば

2023年7月

「形」「乱取」「講義」「問答」

今尾省司


 令和5年4月から、第15代岐阜県柔道協会会長に就任しました。重責を担い、身の引き締まる思いです。
 昨年9月の世界形選手権2022(ポーランド・クラクフ)に、日本チームは「投の形」「極の形」「講道館護身術」の3種目に出場しました。選手はコロナ禍で十分な練習も出来ない、出入国の検査等の気疲れ、そんな状況でも高成績を残しました。世界のレベルは非常に高くなり、日本との差を縮めているのを感じました。選手の努力も無論、自身(監督)の自己研鑽をさらに努めなければと痛感しています。U23(23歳以下)の部門(「投の形」「固の形」)の同時開催もありますが、若い選手や「柔の形」以外の女性選手も増えてきたように映りました。
岐阜県の形と私
 岐阜県では、平成3年に岐阜メモリアルセンター長良川競技場内の武道館完成記念行事として、全国でも早い取り組みで、高校生・中学生を対象に県下形競技大会が開催されました。当時からの県の関係者の熱心な活動が実り、少学生の部では柔整全国柔道大会(「投の形」)優勝組の誕生、一般においても世界チャンピオン3組(「固の形」「柔の形」「極の形」)の輩出に繋がりました。「形大国岐阜」を全国に示せる成績を残しています。
 平成9年(第1回)全日本柔道形競技大会(「投の形」「柔の形」「古式の形」の3種目)開催で、東海地区ではまだ予選が無く、岐阜県は「投の形」の指名を受け取・今尾省司、受・清水(梶田)和憲が出場しましたが、結果は入賞どころか自分たちの「無知を知る」大会出場となりました。私たちは地元の武道館、体育館の落成式などで形の演技をした程度で、形を深く勉強や研究したこともなく当然の結果ではありましたが、悔しさと同時に形に対する新鮮な気持ちが残りました。
 第3回目までは東海地区で予選が無く、第4回大会から東海地区予選会が開催され、再度「投の形」に挑戦する機会を得ました。予選会に先立ち、講道館形講習会が開かれ受講しました。その内容は、技の理合い、正しい動作など、まさに目から鱗が落ちる話ばかりで、すべてに感心し、一心に聞き入りました。その年、平成12年全日本柔道形競技大会で優勝、平成13年講道館鏡開式での形演技の機会をいただきました。12月末に講道館へ形稽古に行き、故・醍醐敏郎先生と山本四郎先生に2日間に亘り技術、技の成り立ち、柔道講話をいただき、形・柔道の奥深さを学び、帰路の列車ではこの講話や技術を岐阜の皆にどう伝えるかの話ばかりで、岐阜に帰っても興奮冷めやらぬ2人でした。
 第5回大会から第10回大会までは「投の形」以外は隔年開催でしたので、「固の形」、次年は「極の形」と交互に挑戦しました。もちろん大会出場の喜びも然ることながら、地方大会前の講道館形講習会での講師の話や指導を受けるのが楽しみでした。講習会で学んだことを乱取稽古で早く試したい、稽古仲間に伝えたい。前以上に乱取、形稽古が楽しくなり、柔道の取り組みに幅が出てきたのを感じました。柔道の楽しさ、奥深さを再発見出来るこれからの学びと稽古が楽しみでした。形を順に学んで得た1つですが、正確な動作で大きな効果を得られる例として、「固の形」と「極の形」の中で片羽絞で制する動作の時、取の左手(「固の形」)・右手(「極の形」)の使い方で効果が異なる手法が、乱取にも効果的です。数々の講義を受けることで、まさに嘉納治五郎師範が説かれた形と乱取の関係を、車の両輪、鳥の双翼に例えて一方に片寄ってはならないことを強調し、「柔道における形は文章における文法であり、乱取は作文であるから柔道も形を学ばなければ熟達はおぼつかない」を少しは理解できるようになりました。
 10年程前から「形王国岐阜」を目指して普及・強化に理解と支援が実を結び、全国大会、世界、アジア大会優勝者を輩出するまでになりました(この選手たちは形のみならず、各道場で指導も各自の乱取稽古にも励んでいます)。形の普及には昇段審査の時の講話、各地域に足繫く通い、形と乱取の魅力の講話と実技指導が必要です。若い世代、女性が魅力を感じ、楽しみながら柔道を続けることを見出す、これらはすべて指導者の質の向上と学びに係ってきます。柔道の修行は「乱取」「形」「講義」「問答」があります。形を研究することの意義と奥深さを体現し、乱取に活かしてほしいと思います。形の全国大会が開催されたことは私の成長に大きく影響しています。これからも自己研鑽に努め、形・柔道の魅力を伝えたいと自身を鼓舞しています。
県協会長として 
 コロナ禍で柔道活動制限、柔道愛好者の減少など問題山積ですが、前会長から引き継いだ組織改革での女性役員増加、普及委員会・ブランディング担当のSNSの活用、ホームページの充実を推し進め、若者、母親と子どもへの普及を進めています。柔道を取り巻く老若男女問わず「楽しめる柔道・生涯柔道」を目標とし、運営に全力を尽くす所存です。各方面からのご意見、ご指導、ご協力を賜りますようお願いいたします。
                        (岐阜県柔道協会会長)

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