今月のことば
2011年10月
金鷲旗と柔道の発展
川崎 隆生
私たち西日本新聞社が、若者の柔道大会を主催し始めて今年で95年になりました。第1回の大正5(1916)年は、福岡県内から12の旧制中学校が参加する小さな大会でした。会場も博多・東中洲の「九州劇場」だったようです。それがいまや、金鷲旗高校柔道大会として男女合わせて500校を超す世界でも例がない大規模の大会になりました。さらに国内、国外から予選なしで参加でき、勝ち抜きのトーナメント方式で競うユニークな大会としても知られています。100年近く、多数の選手が記憶に残るドラマを繰り広げてきたのは九州柔道協会、全国の柔道連盟(協会)、そして協賛各社のおかげと深く感謝しております。
さて、巻頭言を書く機会を折角与えていただきましたので、金鷲旗大会の歴史や現状、課題を見つめなおす中から、我が国武道の中核である柔道の精神性、教育力を再確認し、国際スポーツとして発展する柔道(JUDO)の未来も考えてみたいと思います。
第1回大会は弊社の前身・福岡日日新聞が「九州学生武道大会」として企画し、優勝は中学修猷館(現福岡県立修猷館高校)でした。ベルリン五輪が第一次世界大戦で中止になった年でもありました。以来、第二次世界大戦末期から終戦までの混乱期と戦後、連合国総司令部(GHQ)によって武道が禁止された11年間(昭和18年〜28年)を除いて毎年開催し、今年で85回の歴史を積み重ねることができました。
参加校は昭和30年代になって100校を超え、昭和34(1959)年に九州近県高校柔道大会から金鷲旗争奪高校柔道大会に改称されました。そして昭和47(1972)年、全日本柔道連盟の後援によって全国オープン参加方式を採用、参加校は200校の大台を超え、平成に入って300校を突破しました。
一方、弊紙創刊110周年を迎えた昭和62(1987)年から女子の部(個人戦)を創設、平成2(1990)年からは団体戦を開始しました。その結果、男女合わせた参加規模が500校となっております。
この大会に新聞社の代表として開会の挨拶をしたり、優勝旗を授与したりするたびに考えることがあります。それは精神性を非常に重視する日本古来の武道でありながら、なぜこれほど世界的な国際スポーツに発展したのか、その理由です。
いくつかの資料をあたってみました。その結果、講道館柔道の創始者、嘉納治五郎先生(1860〜1938)という時代を超えた知性、改革する行動力、教育者としての人間的魅力が日本古来の柔術を柔道に発展させたのだと痛感しました。
嘉納先生は日本で初めて自分の私塾で中国留学生を受け入れ、その後東京高等師範学校などで7000人もの中国人留学生に教育の機会を与えられています。また、アジアで初めての国際オリンピック委員となり、アジアと日本のオリンピック運動の先頭を走ったほか、有名な「精力善用・自他共栄」の理念の下、柔道に限らず空手や剣道など幅広く武道を通して青少年の育成に尽力されたことが、嘉納先生の死後、柔道界だけでなく世界のスポーツ界全体を動かし、現在の柔道の隆盛を形作ったのだと思います。
実は私どもの先輩は、金鷲旗の前身である柔道大会を企画した同じ大正5年に「第1回九州青年大運動会」を開き、九州での陸上競技大会の草分けになりました。翌年の第2回から「九州陸上大運動会」となりましたが、その大会顧問が極東体育協会会長でもあった嘉納治五郎氏でした。陸上大運動会は弊社のもう一つの重要なスポーツ事業である「九州一周駅伝」に発展してゆきます。
来年は日本の柔道界にとって大きな節目になると聞いています。中学校における武道必修化です。戦後、GHQによって禁止されて以来、義務教育の現場で見過ごされてきた武道についての知識、意識、そして体育教育が大きく進展するのではないでしょうか。明治維新直後も廃藩置県に伴って、それまで藩士の教育として行われていた武道教育が排斥されています。その後、柔術、剣術(撃剣)が中学校の正式教育科目となるのは明治の末年、今から丁度100年前頃なのです。日本の戦後もはや66年経ちました。これだけの時間を使ってようやく日本の伝統の一つが中学校教育にも大きく取り上げられるようになったのでしょう。
実は新聞界も来年は節目の年です。今年から小学校でスタートした新聞を使った授業や教科書が、来年からは中学校に広がります。インターネット社会の発展で若い新聞購読者が減るなか、次世代を担う子供たちに新聞に親しんでもらい、読解力向上やじっくり考える力を養ってもらうのが目的です。伝統を大切にすることも新聞の役割の一つだと自負しています。
毎年7月、500校約4000人が一堂に会する金鷲旗の開会式は、若き柔道の熱気と目の輝きに圧倒されます。来年もそして10年後、50年後もこの熱気と輝きが引き継がれ、柔道が日本の武道の柱として国際スポーツの華であり続けること信じ、皆様のご活躍を祈っております。
(西日本新聞社代表取締役社長)
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