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今月のことば

2018年1月号

年 頭 所 感

講道館長 上村春樹

講道館長 上村 春樹

平成30年の新年を迎え、心より新春のお慶びを申し上げます。

 昨年も、国内外において少年少女から高段者に至るまで、各種の大会や講習会などが開催され、大変な盛り上がりを見せました。特に、ブダペストでの世界選手権大会、ザグレブでの世界ジュニア選手権大会を観戦してきましたが、出場した各国代表選手はおおむね組み合い、技による攻防が多く、その戦いぶりは迫力がありました。しかし、崩し・作り・掛け、間合いやタイミングの取り方等の理合いを無視し、組むか組まないうちに技を掛け、倒れるということを繰り返す選手も散見されました。今後も技の理合いの理解を促し、攻撃と防御の双方に取り組むなど、普段の稽古の在り方を指導していかなければならないと痛感しました。その中でも、日本選手たちの活躍は目を見張るもので、礼節を重んじ一本を目指す姿勢は観客を魅了しました。

 形の世界選手権大会はイタリアのサルデーニャ島で行われました。日本代表は5種目のうち4種目で優勝し、極の形が2位でした。しかしながら、形の世界大会が始まった当時から考えると各国の代表選手は比べ物にならないほどレベルアップし、日本選手が圧倒的な実力差を示す状況ではなくなり、種目によっては勝っても差は僅少となって来ており、これまでの限られた国のしのぎ合いから全世界的な争いへと様相を変えてきています。大会終了後、講道館のエキスパートにより、今まで大会では実施されていない「古式の形」と「五の形」の講習を行いましたが、各国から参加した愛好者が熱心に受講し、そのレベルはなかなかのもので、平素の熱心な修行が窺えると同時に、本質を理解し、本物を学ぼうとする姿勢も立派なものでした。

 講道館の大きな使命である国内外への柔道の普及・振興事業は、海外ではドイツ、アメリカ、オーストラリア、香港などでのセミナー、国際柔道連盟(IJF)柔道アカデミーへの講師の派遣、また、国内では講道館で開催している「国際セミナー」「国際ユースキャンプ」等へ、多くの国から青少年から高段者に至る修行者を迎えて指導を行いました。さらに、一昨年の11月から始まった国際交流基金アジアセンターと講道館の共催事業である「日アセアン自他共栄プロジェクト」の一環として、アセアン各国へ指導者を派遣し、講習会の開催や昇段試験を実施しました。近い将来、段位の推薦委託団体として「講道館コミッティ」を立ち上げるため、各国連盟と協議しています。アセアン諸国で唯一、柔道の組織がなかったブルネイ王国へも指導者を2名派遣し、柔道のデモンストレーションや体験教室を行い大好評を受け、近いうちにブルネイ柔道連盟が立ち上がることになりました。受け入れ事業としては、アセアン各国を対象にした国際セミナーを開催しました。9ヵ国から18名の指導者が来館し、2週間に亘る柔道の歴史や理念の講義、指導法、形等の研修に熱心に取り組み、大きな成果がありました。「日アセアン自他共栄プロジェクト」は2020年まで続くもので、本年も招聘事業、行事が数多く予定されており、アセアン諸国の柔道の普及・振興を図っていければと思っています。この他、ヨーロッパ、北米、南米の数ヵ国から「講道館講習会」開催の依頼が来ており、時期、講習内容を見極めて、効果的に実施したいと考えています。

 国内にあっては、形や基本指導、審判講習等の「講道館講習会」や東建コーポレーション株式会社の協賛のもと開催している「講道館青少年育成講習会」は、正しい柔道の普及と地域の柔道の活性化に大きく貢献しているものと思います。本年も更なる充実を図っていきます。

 懸案であった柔道の技名称は、技の理合いから再検討を行い、投技・固技の100本に整理し、IJFでも直ちにこれが採用されました。また、柔道用語の解説、子ども護身法(仮称)は現在詰めの段階で、夏までには完成させて発表したいと考えています。さらに、IJFから世界のいくつかの国では小学校の授業で柔道を採り入れているので、低年齢の初心者向け「形」を作ってほしいとの依頼がありました。衝撃を少なくした投技と抑込技を連係した形的なものを作ることを軸に、早急に検討を進めたいと考えています。

 IJFは昨年1月に試合審判規定の改正を行いました。ブダペストの世界選手権大会後に、理事会でその見直しをしましたが、昨今投技における「一本」の評価が乱れてきている状況にありましたので、投技「一本」の本質を説いたところ、多くの賛同を得て、「勢い」「はずみ」という講道館における「一本」の定義を日本語のまま採り入れることになりました。申すまでもなく、柔道の投技の魅力は理合いに則った巧みさと豪快さにあります。これらを表す「勢い」「はずみ」という言葉は当初の規定にあったものですが、投技の原点について世界の人たちに理解されたことは嬉しい限りです。これまでも時代の移り変わりとともにルールは変遷して来ましたが、柔道のルールの根底には武道としての精神があります。ルールをシンプルにして観戦者に解りやすくすることも大切ですが、柔道本来の姿、魅力を失くすわけにはいきません。投技、固技、返し技などの技術面や立ち姿勢と寝姿勢、また、「一本」「技あり」といった評価基準や柔道精神に照らした反則の与え方など、各種定義の原理・原則を解りやすく理論的に言葉で伝える努力を今後も怠らず、試合審判法の在り方と精神を守っていきたいと思っています。

 年頭に当たり、嘉納治五郎師範が創始された講道館柔道の原点に立ち返り、「競技としての柔道」の発展と共に、「教育としての柔道」「人作りとしての柔道」を地道に粘り強く推進し、先達が築いてこられた講道館柔道の伝統を受け継ぎ、更なる歴史を積み重ねるべく、「精力善用」「自他共栄」の実践に努め、国内外に講道館柔道の精神とその本質を発信していく所存です。

 館員の皆様には、本年もご指導、ご支援、ご協力の程、宜しくお願いします。

 結びに本年が皆様にとって良い年になりますようお祈り申し上げます。

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