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今月のことば

2023年5月

兵庫柔道の挑戦を振り返る

藤木崇博


 兵庫県柔道連盟会長に就任して12年が経ちました。この12年間は柔道界にとって激動の時代でした。全日本柔道連盟はもとより各都道府県においても、組織の在り方や運営方法について改革、刷新の機会を与えられた期間でもありました。
 兵庫柔道の眉目は、2021年東京オリンピック大会において阿部一二三、詩兄妹が金メダルを獲得、オリンピック史上初めて同種目同日優勝を成し遂げたことです。2人は高校卒業まで兵庫県で修行を重ね、基本に忠実な正統派の柔道を心掛け、世界の頂点に駆け上がりました。少年柔道、中学、高校と指導された先生方が目先の勝利にこだわらず、正しい柔道を教えられた成果だと思います。来年フランスで開催されるパリオリンピック出場に向けて頑張ってくれることでしょう。また兵庫の若い選手の中から2人に続く選手が生まれることを願っています。
 現在、本県柔連主催大会で全国に誇れる大会は、兵庫グランプリ大会です。1990年の2月11日の建国記念日に第1回大会が開催されて以来、1995年の阪神淡路大震災で中止になった以外は毎年同日に開催されています。しかし、2021年からの2年間はコロナ禍で少年団体、中学、高校選手権大会は中止されました。兵庫グランプリの内容は、男女の選手権大会 (両選手権は近畿選手権大会予選を兼ねる)、中学校選手権、高校選手権、少年団体戦(5月の全国少年大会予選を兼ねる)の各年代が一堂に会して行われます。同じ会場で雰囲気が異なる中、開催されることでお互いの刺激となり、世代を超えた交流の絶好の機会となっています。
 また、女子柔道においては5月3日(固定開催)に行われる高段者大会、段別(25歳以上、女子二段以上)大会を全国に先駆けて2010年から開催、女子柔道の振興に寄与しています。なお毎年3月には嘉納治五郎師範生誕地・KOBE自他共栄カップ?学生柔道大会が講道館、本県柔道連盟などの後援を受けてグリーンアリーナ神戸で開催されています。
 さらに歴史的に見ても、本県は古くから柔術の諸流派が活躍し、武術の盛んな土地柄で、柔道が育つ基盤が培われてきました。明治、大正、昭和、平成、令和の五時代に亘って、苦難の道を切り開き、進化変貌する中で、現在の本県柔道界の隆盛を創り上げられた諸先生方の努力と熱意には、心から敬意を表さずにはいられません。先人には十段2名、九段5名を輩出し、現在も全日本柔道連盟では、特別顧問(加盟団体会長会議常任議長)、評議員3名、各委員会に3名、強化コーチ1名が名を連ねています。また、本県出身者で過去現在を含め、オリンピック柔道競技の代表になった選手は10名を数え、世界選手権を含めるとさらに増えます。全国でも有数の柔道王国と言えるのではないでしょうか。
 兵庫柔道の現状を申し上げれば、少年、中学、高校、実業団は全国でも上位の成績を残し、警察は全国で男子が団体優勝、女子が準優勝の好成績を挙げています。柔道は今や、我が国固有の伝統文化に収まらず、国際的な競技となりました。新しい時代の進展に適応し、柔軟かつ創造的に対処していくことは必要ですが、柔道修行の目的、本来の有り様からの逸脱は避けなければなりません。温故知新を忘れずに正しい歴史観に立ち、将来の展望を創り上げなければと思います。
 子ども柔道家から日本代表選手まで、本県柔連の皆さんが、「精力善用・自他共栄」の精神のもと、心・技・体を磨き鍛えながら、地域や世代を越えた交流と感動の輪を大きく広げて、県下7地区、諸道場、10職域の連帯をさらに深め、助け合いながら新たな目標に向けて果敢に挑戦し続けることを期待しています。
                      (兵庫県柔道連盟会長)

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