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今月のことば

2010年01月

年頭所感

講道館長 上村春樹

 平成22年の新年を迎え、心より新春のお慶びを申し上げます。
 昨年は、長引くイラク、アフガニスタン等の内戦・テロ問題、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況、新型インフルエンザの世界的大流行、凶悪犯罪の多発等暗いニュースが多い一年でした。
今年こそは明るく元気な年となってほしいものです。
 さて、早いもので昨年の4月に私が嘉納行光前館長・前会長の後を受け講道館長・全日本柔道連盟会長に就任して8ヵ月が経ち、無事に初めての新年を迎えることができました。これも一重に柔道人の皆様のご指導、ご支援、ご協力の賜物と心より感謝する次第です。当初は、戸惑いながらの毎日でしたが、ここに来てどうにかペースを掴むことができ、諸々の課題に取り組みつつあるところです。
 館長・会長就任後、多くの方々から様々な要望が寄せられています。私自身の経験からもいくつかの課題を持ってはおりましたが、館長・会長の立場となった今だからこそ再考し、それらを明確なものとして皆で取り組めるように整理した上で施策として具体化し、慎重に物事を進めていきたいと考えています。

 柔道は、日本から世界の文化として普及発展し、多くの国々でその醍醐味、面白さ、教育的側面が評価されて根付いています。私達は、この柔道を受け継ぎ、かつ後世に正しく伝えなければなりません。
 昨今、国際柔道連盟では、ルールやシステムの大幅な変更の動きがありました。私は、常々国際柔道は行き着くところまで行ったら必ず原点に帰ってくると考えておりました。そしてその時、宗家の日本が受け止め、正しい方向に導く準備をしておかなければならないと思っていました。ルールが細分化・合理化・簡略化され過ぎたり、勝たんが為に何をやってもよいということから、技でなくただ倒せばポイントになるとか、柔道としての本来の姿、特性、こだわりを持たなくなったら柔道が柔道でなくなり、ジャケットレスリングなどと言われることになってしまいます。
 最近の柔道が魅力的でなく、また面白くなくなってきたと感じるのは日本の我々だけでなく、国際柔道連盟の中にも同じ危機感を持つ役員が多く出てきたのです。
 そこで、柔道とは何か、正しい礼法、人を魅了する柔道の試合、正しい柔道衣の製造方法等を文章やVTRに纏め、柔道をより良い方向に向かわせるべく大いに議論をしてきました。途中の議論では、「技あり」は理論的でないので廃止したいとか、抑え込みは20秒で「一本」にしたいとか紆余曲折はあったものの、どうにか良い方向に向かっていると思っています。
 礼法の徹底、コーチ・選手のマナーの改善、表彰台での白柔道衣着用の義務化、理合いのある"技"ではなく、ただ単に失敗して尻餅をついただけで負けになるような「効果」の廃止などは正しい柔道への回帰といえます。また、柔道の「形」の重要性を再認識した「世界形選手権大会」の実施については、歓迎すべきことだと思います。さらに、柔道フォーピース委員会が行っている柔道を通じた平和貢献、恵まれない国への支援活動などは、正に嘉納師範の意志を汲むものだと思っています。

 一方、技の禁止への取り組みも行われています。立ち姿勢から直接、腕または手で相手の脚を攻撃する「朽木倒」「双手刈」「踵返」「掬投」「肩車」等の投技の禁止は、脚を取ることだけに集中して腰を90度に曲げ、組まなくなった柔道への対策として行われているもので、いくつかの大会を観たところ、両試合者の姿勢が良くなって正しく組む柔道に戻ってきているように思えます。柔道は本来組んで行うもので、脚を手で取って攻めるこれらの技は奇襲的な技です。この奇襲的な技を常時使うようになると、柔道のスタイルは当然変わり、組まない低い姿勢になってくることになります。
 最近では、危険な技として「蟹挟」、体を捨てての「腕挫腋固」を禁止した経緯がありますが、この二つの技の禁止によって、片方の手だけで組んで技をかける変則柔道、変形柔道を増やすことになったのも事実です。本来は、「技」をすぐに禁止するのではなく指導の一環で正しく組むようにすることが大事ですが、ここまで組まなくなってきた柔道を元に戻すのは指導だけでは困難であり、止むを得ないと思っています。これらの技を禁止することは柔道の攻撃の幅を狭くすることにもなりかねませんが、今回行われるのはダイレクトにかける技のみの禁止であり、相手の投技に対応しての返し技、他の技からの連絡変化としての使用は認められているので、当面は柔道の正しい組み方をさせることを優先せざるを得ないと思っています。反面、今後このことが新たな問題を引き起こすことも懸念されるところです。
 またもう一つの課題として、一人審判の問題があります。現在試行されていますが、これはいくらビデオで確認しても適正な判断は困難であり、時代に逆行するものであると思います。試合の審判は、公平性、透明性、正確性を担保することが重要だと考えています。
 このように世界の動きは速く、また、外国人の多くが、まずはやってみてダメだったら変えればいいという考え方が強いのです。私は、変えることも必要なときもあるが、変えずにこだわりを持って続けることも重要だと思っています。文化は、それが定着するには、「こだわりを持って継続すること」から始まります。柔道文化を後世に正しく伝えるためには、我々は、絶対に変えてはいけないコアの部分に何が何でもこだわってゆかねばならないと考えています。

 今年も課題多き年ではありますが、柔道文化継承のために全力を尽す所存ですので、ご指導、ご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。
 最後になりますが、本年が皆様にとって良い年でありますよう、心からお祈り申し上げます。

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