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今月のことば

2004年12月

2004年12月 柔道つれづれ

笹井 計知

 今年も国内外ともに大きな出来事、又あまた話題の多かった年であった。  正に内憂外患、頻繁に起こる凶悪で残忍な犯罪、終息の先き行きが見えない国際紛争等々国民にとって不安が絶えません。  例年になかった相次ぐ台風の上陸は全国各地に多くの犠牲者と大きな災害をもたらした。その爪痕が癒えぬ間の十月、折しも埼玉国体開催中におきた新潟県中越地震は一瞬にして民家の倒壊や土砂崩落を発生させ、一時は立って歩けない程の揺れであった。  多数の死者をだすとともに被災地の惨禍は凄まじいものである。上越新幹線の脱線は新幹線開業以来初めてのことだと云う。瞬く間に被災者の方々を筆舌に尽くしがたい苦しみと、悲しみのどん底に落し入れてしまった。  余震の続く恐怖の最中に崩壊した土砂と瓦礫の中に埋もれた自家用車の中から奇跡的にレスキュー隊によって救出された二歳児の驚異的な生命力に、同乗していた母親と三歳児である姉の死と云う悲報のなかで一つの感動と驚きでもあった。文明の利器をもってしてもこうする抗し難い自然の脅威を改めて知らされた。  日本は地震列島、何時どこでおきても不思議ではない。殊に新潟県との隣接県で居住する私どもにとっては何時我が身のことかと思うととても他人事とは思えず被災者の皆様に心よりお見舞申しあげる次第です。  さて柔道界にとっては何と言っても八月に近代五輪発祥の地アテネで開催された第二十八回オリンピック大会での日本選手団の活躍であった。  取分け柔道競技は開幕早々の初日から日本選手のメダルラッシュの流れをつくってくれた。  表彰台に立つ選手とともに演奏される国歌に感動するなかで日本中が沸きかえった。  柔道競技において今回の金メダル八個は史上最多であり、特に女子選手の活躍が目立った大会でもあった。  今日までのオリンピック大会をはじめ、各種国際大会で外国人選手の力技と変形柔道に悩まされ焦れったさと苦い思いをしてきただけに、今大会で日本の選手が臆することなく堂々と一本を決める試合に柔道発祥国としての面目躍如たるものがあった。  連日のメダル奪取の模様は深夜に放映されるテレビ中継に見入り、ついつい睡眠不足を来してしまった。  アテネオリンピックの勝利を目指し日頃の練習に刻苦奮励努力した選手と、又常に選手と一体となって指導強化に取り組んでいただいたコーチ、指導スタッフ、及び強化関係者の方々に改めて敬意を表します。  ともすると少年柔道にまで勝利にこだわるあまりポイント柔道になりがちな傾向が見られるが、これを契機に国内はもとより世界の柔道が講道館柔道の本旨である一本を目指す本来の姿に戻って欲しいと願っています。  私は三十九年間の教員生活を終え三年が経過した。  教師として在任中は教科としての授業担当だけでなく校務分掌は多種多様で仕事に忙殺されるなかで部活動の指導のかたわら、県、地域の柔道協会の役職を兼務し、時間的にはとても柔道一筋と言うわけにはいかなかったが教師としての自分を支えてくれたものは柔道であり又生きがいでもあった。  若かった頃はずい分と乱暴なこともしたが当時生徒であった卒業生との懐古の情が厚く今もって続く交流は私の宝でもある。  在職中は校務、雑用に追われ一日一日が手いっぱいであったが不思議にも酒を飲む暇だけはあった。  今にして思えば柔道をはじめあらゆる物事に対して深く探求する言う気持ちに欠けていたように思う。  柔道であればただ強くすれば良い、技はどうであれ勝負に勝てばよし、今風に言えば教育的指導、配慮に欠けていたと言う事でただただ反省の日々である。  高校教員を退職した現在は時間的にも余裕ができ、柔道連盟の役員を務めながら地域の少年柔道教室で指導しながら今日までの反省を生かそうと考えている。この子供達のなかから将来優秀な人材と日本を代表するような選手が育ってくれることを夢見ている。  柔道衣を着て道場の青畳に立つ引き締まった気持ちは昔も今も変らない。  加齢とともに老化現象は日々進行し、かつての無理がたたってか、膝、腰に故障をかかえる体であるが、年齢相応の健康を考えての生涯柔道をと心がけている昨今である。

(長野県柔道連盟会長)

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