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今月のことば

2014年07月

柔道と「花子とアン」と甲州弁

中嶌和久

 山梨県柔道連盟は大正末期に設立された山梨県有段者の会を発展的に解消し、昭和24年の全日本柔道連盟発足と同時に設立されました。  私は、昨年4月、会長に就任すると同時に、関東地区を代表して全日本柔道連盟の理事に選任されました。柔道界では、現在様々な課題が山積しており、それへの取り組み等であっという間の1年が過ぎました。2年目に入り、改めて身を引き締めて職責を全うする覚悟であると共に、嘉納治五郎師範の遺訓である「己を完成し、世を補益するが、柔道修行の究竟の目的である」この達成に向けて、誠心誠意努めたいと思います。また、山積する様々な課題に対しても、自他共栄の精神を常に念頭に置き、関係各位と連携のもと、解決に向けて1つでもよい結果を出せるよう、頑張っていくつもりです。格段の深いご理解とご協力の程、宜しくお願い申し上げます。   1.柔道人口減少に対する方策  全日本柔道連盟が作成した登録関係資料(平成26年3月4日現在)によると、登録者数が減少し続けています。山梨県も同じ傾向にあり、迅速な歯止め対策として打つ手はないのか先行きが心配です。日本の人口も減少が続き、年平均約74万人、今後44年間で3260万人が減り、何と2040年には、現在1800ある全国の市町村のうち896の自治体が消滅するという試算もあります。全柔連の登録者数を24年度と25年度で比較すると、10233名が減少しています。人口減少と少子高齢化が急激に進む中、柔道人口の減少を食い止める対策について総力を挙げて展開する必要があると思います。  対策の1つとして、柔道人気を上昇させることが考えられます。あまり高度なことにこだわっていると結果が出せないで終わりということもありますから、やりやすいことから行うことが肝要です。  予算の無いところに事業の執行はあり得ないという理念に基づき、厳しい財政状況ですが、必要な予算措置を講じ、世界に名の通った有名選手や有名人を国内外へ派遣したり、すでに実施している柔道フェスタなどの回数を増やしたりすることは、柔道人口の増加につながるのではないでしょうか。サイン会の実施、正しい柔道の精神・心構えの講座開催、柔道グッズの配布など、参加者が和やかに正しい柔道を理解し、是非やってみたいという気持ちを持っていただけるよう、各地域との連携を密にし、笑いと喜びと感動の柔道フェスタを実施することは、選択肢の1つだと思っています。   2.最近の山梨県事情 「みいしみて腰を入れにゃあだめずら!」 「わにわにしちゃあいんで、まっとこぴっとしろ!」  山梨県にある柔道場では、大声でこんな指導者の声が響いているかもしれません。  この4月からNHK朝の連続テレビ小説で放映されている「花子とアン」を見ている人はピンとくると思いますが、この方言は何を隠そう「甲州弁」です。  「花子とアン」は、カナダの小説家・モンゴメリ著の「赤毛のアン」を日本ではじめて戦時中に翻訳した村岡花子の半生を描いた作品だそうです。彼女が山梨県に生まれたことから、お国言葉である「甲州弁」が頻繁に登場してくるのです。  山梨県民にとっては、NHK朝の連続テレビ小説で県自体が取り上げられるのは初めてのことで、映像で山梨の景色が映し出されたり、「甲州弁」で会話がなされるのはとても嬉しいことです。県内では、いたるところで花子関連のイベントが催され、賑わいを見せています。  因みに冒頭の甲州弁での指導は、 「真面目に腰を入れなくてはいけないよ!」 「ふざけてないで、もっとちゃんとしなさい!」という意味です。  また、テレビの「花子とアン」のオープニングソングの終わりのシーンに登場する富士山は、昨年6月に世界文化遺産となり、世界の宝となりました。山梨県民にとって、富士山は心の支え、魂の置き場であり、どこにいても富士山とともにあるといっても過言ではありません。  富士山は日本一の山ですが、山梨には現在、有人で世界一、時速581?の世界記録を打ち立てた鉄道があります。先般、ケネディ駐日アメリカ大使が試乗して、非常に快適だったとの感想をオバマ大統領に伝えたリニアモーターカーがそれです。月刊誌「柔道」の読者諸氏におかれましては、風光明媚な山梨に是非足を運んでいただきたいと思います。   3.嘉納師範のご母堂の教え  嘉納師範のご母堂の、人に尽すことの教えは、現代社会のまさに模範であると思います。夫の留守を守る傍ら、少年時代の師範を教育した母君は人のために尽すこと、礼儀正しくすることを特に厳しく教え、その一方で優しい心を持つことが大切なことも教えたそうです。  不作法なことをしたときには、反省するまでは決して許さず、また困っている人に対しては我がことのように親身になって接する、そんな母君の姿が師範の人柄に大きく影響したと言われています。  現在、こういう教えが希薄になっているのではないでしょうか。それだけに、師範のご母堂の教えは、価値の高い、人としての行動の規範であると考えます。誰もがこういう心と自信を持って行動すれば、柔道界はもとより、この日本も、まだまだ発展し、成長し続けることができると信じて止みません。

(山梨県柔道連盟会長)

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