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今月のことば

2007年04月

新たな心で少年柔道の育成を

大山 光瑞

 平成十九年度、今年は亥年に当たります。亥は十二支の十二番目ですが、十二支のほか、時刻や方角をあらわし、動物では猪を表わします。猪と言えば「猪突猛進」と言う言葉を思い浮かべると思います。この言葉は、むこう見ずに猛然と突き進むことです。あまり良い意味ではありません。時代劇では「猪武者」と言って、あとさき考えなしで無鉄砲に敵に向かって突進する武者を言っています。
 今年はとくに猪突猛進にならないよう戒めたいところです。ところが亥と言う文字は「豚の骨格をたてに描いたのであり、骨組みができあがる意を含む」とあります。これは大変よい意味です。講道館、全柔連共同プロジェクト「柔道ルネッサンス」の事業も骨格が出来上り、各地域に浸透し、大きな波紋となり、広く世界にまで展開される年であることを祈ります。

 猪が真直ぐ進む姿から、禅語の「驀直去」という言葉を思い出します。この言葉は脇目をふらず驀地 に進んで行くということで、これは我々柔道修行者の心得であるばかりでなく、日常生活のあるべき姿を表わしています。我々修行者は嘉納師範の理想とする講道館柔道の本質、真髄に一歩でも近づけるよう驀地に修行に励み精進していきたいと思います。日本で生れた柔道も世界各国に広がり、IJF加盟国が、一九五ヵ国、地域に達し、競技者人口に於て日本より多い国が出ています。二〇〇八年には北京オリンピックが開催されますが、前回のアテネ大会のように金メダルの有望種目として国民的な期待がかかっています。しかし世界のレベルは高く大変厳しい状況にあると思いますが、是非前回の実績が維持できるよう、必勝を期して指導強化に精進され、国民に感動を、少年達に夢を与える活躍を期待いたします。

 日本柔道の「柔能く剛を制す」柔道から、スピード、パワーの柔道へ質的に変ってきています。世界で勝つためには青少年の強化と少年期からの一貫した強化体制を組むことだと思います。しかし懸念されることは勝つことのみに固執した試合偏重の強化指導では本来の人格形成を目的とした柔道の普及発展が出来なくなる心配があります。チャンピオン育成にのみ捕われず、より多くの人が柔道に興味を持ち、楽しみながら修行できることが大切です。少年の育成指導を考える時、柔道を通じて少年達の健全育成を目指すことは言うまでもありません。スポーツに対する価値観の多様化、少子化現象等により、柔道離れが進んでいる現在、どの様にして修行者を増やし、普及発展を図るか、課題に直面します。普及と強化を両立させることは、我々指導者の理想ではありますが、心身共に成長期にある少年達には正しい柔道を指導し、しっかりとした基本を身に付けさせることです。本県における少年柔道は、連盟創立五十周年を機に、少年柔道団を結成、小学生の低学年から参加できる大会を実施しています。礼法を重んじ、基本的な動作や試合態度、技能等、正しく身につけさせ、勝敗にこだわらず試合や演技を通じて、投げ、固技の技能を修得させることにしています。褒賞に於ても、上位入賞者の表彰と合せて、礼法、試合態度、技能等に優れた選手を表彰し、正しい柔道の普及発展に努めているところです。

 柔道指導の根底に流れているものは、柔道を通じての人間教育(人造り)です。各家庭での共働きや、少子化など、子供達と真剣に向き合う機会が少なくなった今日、柔道は指導者と子供達が肌と肌で語り合うことが出来る素晴らしい競技です。
 嘉納師範は、「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である。その修行は攻撃防禦の練習によって身体や精神を鍛錬修養し、斯道の真髄を体得することである。そうしてこれによって己れを完成し、世を補益することが、柔道修行の目的である」と述べられています。その具現化を目指しながら、「亥」の骨格を大切にし、新たな心で猪のように脇目をふらず驀地に、正しい柔道の普及発展と、次代を担う礼儀正しく、逞しい少年達の育成指導に邁進したいと思います。

(栃木県柔道連盟会長)

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