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今月のことば

2013年03月

柔道の普及・活性化について

岸 谷 外 男(きしたに そとお)

 3月も半ばを過ぎると北陸では寒気も緩み、外気は次第に暖かさを増してきます。学校では外の暖かさに誘われ、グラウンドでアウトドアのスポ?ツの練習が盛んになり明るく活気ある生徒の歓声が聞こえます。そこには季節感と活動への意欲が感じられます。こうしたとき私は道場で指導しながら両方の雰囲気の違いを感じざるを得ません。グラウンドで多くの部員を抱えた種目とは対照的に、数が少なくても懸命に稽古する姿に思わず一人一人に激励の言葉をかけたものでした。そして毎年の課題である新学期の部員増を期待してしまいます。もう何十年たったでしょうか、中学校の指導者として過ごした頃の3月の期末が懐かしく思い出されます。
「柔道の普及・活性化」と言いますが、人が相手ですからそう簡単にはいきません。またそれぞれの地域・時代によって事情が違います。
 石川県内では昭和50年頃までは柔道教室や町道場は少なく、中学校の普及への役割は大きいものでした。普及が遅れていた金沢においては私たち顧問数人で柔道経験者を口説いて部を創ってもらったり、高体連と指導者の合同研修をしたり、他校の生徒の指導を請け負ったりしました。また指導者不足を補うために度々土曜日に合同練習をしました。また生徒に目標を持たせるため1〜3級の昇級テストを始めました。その後は県内に指導者が増え普及も順調に進みました。50年代は発展期と言えるでしょう。昭和59年からは中・高校生には技の理解、成人には柔道を継続して練習して貰うため、形の選手権大会を始めました。この3つの行事は現在も行われています。これが当時私たちが出来うる普及活動でした。
 しかし全国的な傾向ですが、昭和60年頃から柔道人口は長期的に緩やかな減少傾向が進みました。現在は何とか横ばい状態です。一方、女子の入部数が増え男子の減少を数的に補っている現状です。その間に新たな8つの柔道教室や町道場が創立されたのですが、中・高校生の減少が大きく柔道人口の増加には繋がらなかったようです。柔道人口の大きな減少は憂慮すべきことです。私は少子化は勿論ですが、柔道の持つ特性の広報活動や、安全を前提とした指導法の工夫が遅れていたことなど原因は多義にわたると思います。ともかく出来ることは早く対策をたてて実行しなければと思います。
 ところが残念なことに社会や学校の状況の変化は、以前のような我々の世代の普及活動を受け入れてはくれません。今の時代に合った普及活動を進めるには、柔道を取り巻く諸問題を我々だけで分析し対策をたてるのではなく、柔道関係以外の人々、少年・中・高校生の保護者が柔道をどのように見ているのか、その意見を集約すべきです。その上で組織としての対策に反映させていくべきでしょう。最近、県内では国際大会で活躍する選手が輩出されて大変喜んでいます。周りは強化への関心が強くなっているようです。それは結構なことですが、私はやはり「普及こそ最大の強化なり」と言い続けたいのです。
 さて、最近は県内全域で柔道教室(6)と町道場(29)の存在が大きくなっています。そこには熱心で優れた指導者も多く、日々普及・強化に努力しておられます。またそれぞれの地域の柔道経験者も指導に協力しています。こうした柔道教室、町道場をどのようにサポ?トするべきか、重要なことと思います。
 石川県では柔道の普及・柔道人口拡大のために次のような取り組みを進めています。
1.広報活動:連盟広報の発行とホ?ムペ?ジの開設(柔道って何・柔道の素晴らしさを伝える。1年の大会記録)
2.柔道ルネッサンス運動の推進(目標で終わらせず具体的な内容を細かく設定し実践):小・中・高校では基本的しつけ、挨拶、礼儀を重んずる態度が向上し(例:トイレでは殆どの生徒は自分の履き物だけでなく全部をそろえ、ゴミの収集、礼儀が良くなっている)、他の生徒の良い見本となっている。観客の保護者も協力的になった。
3.地域の柔道教室の新設の促進し、活性化を促す(今後の重要課題)。
4.少年柔道から中学校入学後の継続を働きかける。
5.学校への働きかけ(コ?チの導入、町道場の生徒の大会出場と引率の依頼)
6.大会運営の改善(大会が選手にも観客にも親しめ、柔道の意義を理解出来る)
7.女性部の創立とその活動(平成19年創立:部員32名):親子柔道教室の開設、形の講習会、審判講習会、体験柔道教室の開設
8.形の講習会:年4回実施、他に県内を3地区に分けた講習を年に1回実施
9.少年、中学校の錬成大会開催(平成17年より)

 私は柔道の活性化を考えるとき、柔道の目指す人間形成の役割を日々の練習の中で成就してこそ活性化が評価されるべきであると考えます。柔道は練習する者の生き方に方向性を与え、心の持ち方を強くしてこそ武道と言えるでしょう。そのために指導者は自らを常に律し、生き生きとした明るい態度・言葉・行動で指導することを期待します。また安全指導を念頭に受身や基本的な動作や移動・崩しにおいて、早くから対人(相対)練習を導入した方が安全も担保できると思います。日々の練習で生徒が練習に来て良かったと思い、何かを得たり喜びを感じて帰って欲しいと願っています。

(石川県柔道連盟会長)

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