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今月のことば

2019年3月

ひたすらに努力する

今井國男


はじめに
 数年前、五木寛之著『生きるヒント』に、「余力あるうちにリタイアすれば、本を読んだり野菜や花を作ったり趣味を伸ばすことができ豊かな人生が送れる。その時間とゆとりを生み出すために働くのであり、(中略)定年こそ人生の収穫だ」と書かれていました。そんな悠々自適の生活を夢見ていたものの現実は異なり、県柔連の理事長に任命され、週3日は高校の非常勤講師、休日は殆ど県内外への出張、さらに平成30(2018)年4月からは15年に亘って会長職を務められた内野幸重氏から県柔連会長を受け継ぐことになりました。日頃から柔道に対する情熱、思いは誰にも負けない自負もあります。まずは、重点目標に「底辺の拡大」「女子柔道の普及発展」「競技力の向上」の3本柱を掲げ、粉骨砕身で努力、精進する覚悟でおります。

柔道との出会い
 2年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。オリンピックと聞いて思い出すのは、54年前の東京オリンピックでのテレビ観戦中に耳にした「柔道だけは常に日本が世界一であって欲しい」という言葉である。数多くある種目の中でなぜ柔道だけは常に勝ってという感情を多くの人が持っているのか、理解できなかったことを思い出す。
 そうした中で、私が柔道を始めたのはそれから暫くしてからのことである。

県柔道連盟の変遷
 岡山は古くから武術が盛んで、柔術の源流である竹内流柔術の発祥地です。また、起倒流や不遷流も今日まで脈々と継承されています。柔道の強豪地としても知られ、戦前の高専大会では第六高等学校(現岡山大学)が10回優勝を成し遂げました。そして全国大会を7度も制覇した津山中学(現津山高校)なども、輝かしい活躍の記録を残しています。
 戦後、昭和28(1953)年に、故三木行治氏(元岡山県知事)を初代会長として岡山県柔道連盟の組織が確立しました。
 昭和60(1985)年には、岡山県武道館を会場に「女子柔道団体優勝大会」を開催しました。翌年から全日本柔道連盟主催の「全日本女子柔道団体優勝大会」として47都道府県から選ばれた選手たちによる戦いが毎年繰り広げられるようになり、さらに平成9(1997)年からは「都道府県対抗全日本女子柔道大会」として平成21(2009)年まで続けられました。そこから多くの選手が世界に羽ばたいて活躍するなど、日本女子柔道の発展に貢献することができました。
 最近では、男子は作陽高校、女子は創志学園高校が全国上位に入賞しています。大学では環太平洋大学(IPU)が全国制覇を達成。個人は世界選手権女子78kg級で梅木真美選手(IPU出身)が金メダル、男子90kg級で長澤憲大選手(作陽高出身)が銅メダル、グランドスラム大阪で女子63kg級の土井雅子選手(IPU出身)が金メダルを獲得するなど、活躍を見せてくれています。

柔道との出会いと修行時代
 昭和39(1964)年、中学2年生のとき、東京オリンピックが盛大に開催されました。後に我が師となる猪熊功選手が、80kg足らずの体重でありながら重量級で優勝する姿を目にしたとき、自分もあのように強くなりたいと柔道を始めました。
 私事ですが、小学6年の時、子どものいない家に養子として迎えられました。柔道を始めた頃は、育ての親から支援を得て高校に進学することには抵抗があり、進学を諦めていました。ところが、中学3年の2月、縁あって作陽高校副校長の故松田昌守氏から声をかけて頂き、奨学金を得て高校に進学しました。
 高校3年間は無我夢中で柔道に取り組み、念願かなって団体・個人共に県で優勝し、インターハイ・国体へ出場を果しました。当時の福井国体では、緒戦で優勝した現在の上村春樹講道館長を擁する熊本県に大敗しました。しかし、顧問の土井彰先生(県柔連副会長)や杉山重利先生(元文部省主任体育官)の薦めもあり、憧れの猪熊功先生や佐藤宣践先生のおられる東海大学に進学することになりました。
 卒業を前に作陽学園創始者の松田藤子学園長から「生徒に胸を張れる教員を目指しなさい」と激励され、その言葉を胸に大学4年間は見るもの、聞くもの、食べるもの、全て柔道に置き換え精進しました。このように厳しい稽古に明け暮れた生活から、信念、情熱、克己心などを養うことでき、そして体も丈夫になりました。

恩師の先生方から頂いたお言葉
・松田藤子作陽学園創始者  親を忘れる日、それは事故の起きる日である。今日一日親に生かされ、有り難い私でありたい(自分が今日あるのは、多くの人に支えられ生かされているのだ、生みの親、育ての親、教えの親の大恩を忘れてはいけない)。
 冷たい目、温かい心、動く手足、動かぬ腹(善か悪か見極める冷静な目、他人を思いやる温かい心、最後までやり遂げる行動力を身につけること)。
・佐藤宣践東海大学名誉教授
 柔道が強くなるためには運動神経が良いとか、柔道センスがあるとかと言うよりも、何くそと頑張る心が一番大切である。
 一流の選手は怪我などで苦境に陥っても、例え99%不可能であっても、マイナス志向を捨て、日々自分を信じて精進することができる。
 これらの言葉を私は生涯忘れません。柔道を通して多くの先生方との出会いが私の人生をどれだけ豊かにしてくれたことか。心より感謝申し上げます。

教員生活で培った「気づき」「声かけ」「行動」の3K精神
 現在、わが県でも教育は多くの課題を抱えています。不登校、学力不足、校内暴力等、これらは学校、家庭、地域社会が問題解決に一体となって取り組まなければなりません。
 私は教員生活の中で体得した「気づき」「声かけ」「行動」の3つ(3K精神)を信条としてきました。部活動でも、いかに選手がやる気を持ち目標に向かって突き進むことができるか、勇気を与えることができるのかを考えていました。
 現在の会長職についても、尊敬して止まない上司が教えてくれた「生徒は昆虫と同じで、卵→幼虫→さなぎ→成虫と脱皮を繰り返しながら節目、節目で自分となり成長する」を胸に、人生の節目を前向きにとらえ、今の自分と違う新たな心を持って歩んでいこうと思っています。  嘉納治五郎師範、そして恩師の佐藤宣践先生がよく使われていた「力必達」この言葉を忘れず、これからも目標を持ち諦めずに努力していこうと思います。

スペインナショナルチームの東京オリンピック事前合宿
 わが県では「晴れの国おかやま生き活きプラン」を実施しています。その一環としてスポーツの国際交流が行われ、柔道も以前から交流のあったスペインのオリンピック事前合宿が決定し調印も済ませました。女子は環太平洋大学、男子は岡山商科大学が中心に実施します。また、少年少女を対象にスペインチームのコーチや選手から直接指導を受けることも計画しており、子どもたちにとって一生忘れられない貴重な体験と財産になると確信しています。

今後の課題と取り組み
 本県でも少子化に伴う柔道人口の減少、昇段者の滅少、人間関係の希薄化など課題は山積しています。これらに対して真正面から向き合い「正しい柔道、柔道の魅力」などを若者たちへ伝えると共に、指導者の育成、安全指導の徹底、競技力の向上、保護者への啓発などを重点目標に、「精力善用」「自他共栄」精神を柔道の修行を通して高め合い、今後一層の充実発展に努力し人間教育に邁進したいと思います。
                           (岡山県柔道連盟会長)

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