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今月のことば

2013年06月

適性を把握し中長期的の育成

平岡康司

 私の子供の頃はよく遊んだ。山に川に海に、とにかく自然の中で、身体を動かし汗をかき暗くなるまで、家の外で遊んだものだ。擦り傷は絶えることがなかった。転ぶ・飛ぶ・落ちる。この様なことは日常茶飯事で、何回も繰り返すうちに、上手く身体を使いこなし大きな怪我にならない転び方・倒れ方・落ち方を自然と身に付けた。また、家の手伝いもよくさせられた。重いものを運び、2〜3kmは当たり前で、それ以上の所までも歩いて使いに行った。身体の使い方・基礎体力も生活の中で養われた。現在のように、いろいろな娯楽が無かったことも一つの要因ではあるだろう。
 今の子供たちはどうだろう。山や川で遊ぶことは禁止、公園ではキャッチボールやボール蹴りはできない。身体を使った手伝いも無い。わずかな距離でも自動車など乗り物で移動する。ほとんど身体を動かしていない。基礎体力も無ければ、運動能力も備わっていない。柔道も、この点を十分考慮して指導しないと、怪我が多くなり、柔道を嫌いにさせてしまうことになるだろう。いろいろな身体の動きを体験させ、少しずつ体力を付けていくことから始めなければならない。いきなり柔道の指導に入るのではなく、現在の子供たちの体力・生活環境をしっかりと把握した上で、基礎体力の向上を含めた指導プログラムを作成しなければならない。特に成長過程にある子供の指導では、大切なことだと思っている。
 また、子供たちの試合を見ていると試合に勝つことだけに執着しているように思えてならない。指導者をはじめ保護者の多くが勝つことのみに拘わっているように思える。試合の結果だけで評価がされ易いため、指導者は試合に勝てる指導を行っているのではないだろうか。打込に時間をかけ技をしっかり身につけ一本を決める技を競うのではなく、優勢に見せる試合運びをしながらポイントを取って勝てば良いとしているのではないだろうか。試合で勝つ喜びを体験させることは必要ではあるが、あまり勝つことのみに拘わるのは、柔道修行の本質ではないことに気づいてほしい。指導者は、子供たちが一つ一つの技について、基本をしっかり身につける稽古を積み重ねながら心身の鍛練と自身の可能性を引き出す指導に努めてほしい。
 小学生を含め成長過程にある選手を、その時期に、試合で上位の成績を残す選手に仕上げようと過度の稽古や、応用技術を優先する指導を行うのではなく、長期的な視野に立った心身の鍛錬・基本技術の修得・育成を強く望みたい。このことは、将来、世界のトップを目指す選手育成に大きく影響してくる問題だと思っている。柔道を始めたばかりの幼児期から成長期、成年期と、それぞれの年齢層・適性に応じ、運動及び技の種類・強さ(質)・時間・頻度(量)をどの程度行っていくのか、子供から成年までの一貫した指導体系を確立する必要があるのではないだろうか。文部科学省や全日本柔道連盟においては現場の指導者がそれぞれの年齢層・適性に応じた適切な指導を行えるよう継続して努力して欲しい。
 現在では、柔道は世界約200の国・地域で行われており、単なるスポーツというだけでなく教育的価値が広く認められていることが窺える。今年から公認指導者資格制度がスタートした。このことは、自分も含め柔道指導者に今一度柔道とは、と問いかけられているのだと思う。小・中学生においては、結果だけを求める短期的指導ではなく、個々の適性を把握した中長期的視野に立った基本指導を行い、将来に亘って柔道と付き合っていける柔道人の育成・普及こそが今我々指導者に求められていると強く感じている。
 指導者は、常に前向きに真摯に指導にあたり、謙虚に学び続けなければならない。柔道は、人間形成において最大の道標であると信じている。

(広島県柔道連盟会長)

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