今月のことば
2010年06月
柔道を愛する
竹内 資浩(もとひろ)
「精力善用・自他共栄」は、最も尊敬する講道館柔道の創始者「嘉納治五郎師範」の尊い教えであります。 師がいわれる、「柔道とは、心身の力を最も有効に使用する道であり、自己を完成し、世を補益することこそ、柔道修行の究竟の目的である」。「礼に始まり、礼に終わる」「人に勝つより、己に勝て」。教育者でもあられた嘉納師範の、一つ一つの教えを重くかみしめながら、今も昔も人間関係の難しさに思いをいたし、「自他共栄とは」他を押しのけてでも自分さえよければのエゴイズムではなく、自分を大切にするように、それ以上に他の為に尽し抜く心こそが人生の、そして柔道の極意だと教えて下さっているのではないかと思うのであります。まさに指導者としての原点ではないかと思わずにはいられません。
近年の柔道は国際化が進む中、講道館柔道の本来の姿が無くなっている状況を憂い、悔しさでいっぱいであります。レスリングと間違うような、最初から足を取りに行くスタイル、ちょっと倒れたり尻もちをつくだけで「効果」を取られ負けてしまう。正しく組んで「一本」を取りに行く柔道こそ、嘉納師範の願う講道館柔道の真髄ではないでしょうか。国際柔道連盟がルールの改正を行い、最初から足を取りに行くことをはじめ、反則が増え、「効果」も無くしたと聞いていますが、これらルールを変えたからといって柔道の本筋に戻るとは到底思えないのであります。毎日毎日繰り返される正しい稽古こそが、唯一、「一本」を取る近道ではないかと考えます。「押さば引け、引かば押せ」、自然体で「崩して、掛ける」これこそが嘉納師範の求められた、講道館柔道ではないでしょうか。
ガチガチに握っていては技は掛からない。ゴルフでも強く握りすぎると、ナイスショットは出来ないと言われています。これはごく当たり前のことですが、常に準備運動や受身を充分にやることは基本中の基本であります。また、寝技の稽古を軽んじてはならないのであります。寝技に自信があれば、当然、思い切った技を掛けることが出来るのであります。
嘉納師範の貴重な教えを本で読み、その偉大さに只々感激の極みであります。現在の混迷の時にこそ、創始者の教えの原点に立ち返ることこそ大切なことではないでしょうか。今、情熱を燃やし、愛する柔道に誇りを持って打ち込んでいる指導者が正しい稽古を積み重ね繰り返し指導する事によって、より高い理想の柔道人を創り出すことが出来ると信じています。
上村春樹館長を中心に指導者の養成と、人づくりが講道館柔道の本筋に近づいて行くことをひたすら願っております。
我が徳島県は昨年の国勢調査において、人口80万人を切り、全国でも少人口の県であります。柔道登録人口も約1200人で小粒ながら、ピリリと辛い存在感を発揮しようと役員、指導者が一丸となって、一つ一つのポジションを責任を持って守っています。小学生・中学生は、指導者不足にもかかわらず、熱心な先生の頑張りでここ数年、全国大会でも入賞者を出すなど弱小県としてはよくやっていると感謝しています。しかしこれら優秀な選手が、県外に多く流出する現状に悩んでいるところであります。一般社会人については警察に頼るところ大であり、大学・企業の台頭に期待するばかりであります。
変わったところでは、ドイツのニーダーザクセン州との柔道交流があります。徳島県とニーダーザクセン州とは平成19年に姉妹都市を結び、経済・文化の交流を深めています。昨年、高校生を中心に男女10名が来徳し、地元も高校・中学生が参加、盛大な強化練習になりました。また、大阪府警察本部道場師範の香月清人先生(1979年世界選手権優勝)をお招きすることができ、ドイツの選手からは尊敬と信頼を集められました。また、本県の中高生にも大きな成果があったものと喜んでおります。機関誌「徳島の柔道」は今年で36号を数え、情報機関誌として欠かすことの出来ない貴重なものとなっています。
私事でありますが、私と柔道の出会いは、中学生の時、映画で見た姿三四郎に憧れ高校に入学してから柔道を始めました。青い畳の上で過ごした毎日は、涙あり、汗あり、苦しみの中に喜びがあり、生涯の友とも出会うことが出来ました。柔道は私にとって青春時代の全てと言っても過言ではありません。
一年生の時は毎日毎日受身の練習に明け暮れたものであります。(そのことを一番大切だと知ったのは大分後のことであります)柔道は投げられることから始まります。攻撃より、まず受身、怪我から自分の身を守ることを優先する、これこそ柔道の持つ素晴らしさであり、嘉納師範のすごさであると強く感激するところであります。高校時代の私は勝つことだけにこだわり、一心不乱になって勝つための稽古を重ねていたものであります。今はその時の事が反省とともにほろ苦く懐かしく思い出されます。その後、26歳で市議会議員に当選、政治の道を歩む事になりました。県議選で2度の落選を経験し、平成3年ようやく初当選、当時、尊敬して止まない大先輩で講道館九段・連盟の第2代会長であり、県議会議長であられた故 湊 庄一先生のご教導を賜り、昨年第5代の会長に就任、今日に至っております。私は全国の会長の多くの方々のように輝かしい柔道歴は何一つありません。只、柔道が大好きで愛しているだけの男でございます。どうか浅学非才の身でありますが、宜しくご指導賜りますよう伏してお頼み申し上げます。嘉納師範が残された多くの尊い教えを生涯の宝として、生ある限り柔道を愛し続ける決意でございます。 合掌
(徳島県柔道連盟会長)
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