今月のことば
2012年04月
地域における柔道の活性化を目指して
中島祥雄
昨年4月に佐賀県柔道協会長に就任し1年を経過したところであるが、佐賀という小さな県の中で柔道の活性化を図るにはどうすれば良いか、私の考えるところを述べてみたい。
柔道の活性化を図る上で重要と思われるのは、柔道人口の底辺を如何に拡大することができるかにかかっていると思う。そういう意味から佐賀県の柔道界を取り巻く環境は非常に厳しく、柔道人口は減少を続けている。その要因として、少子化問題やスポーツの多様化などの他、中学校での指導者不足などが考えられる。
せっかく、小学生以下の子供を主体に構成されている少年柔道が、いわゆる「少年柔道クラブ」として地域に根差し指導者の熱意ある指導により活性化しても、それらの少年が中学校へ進学する際、中学校での指導者不足や他のスポーツへの好奇心等の事情から、柔道から離れていくものと思われる。
このため、少年柔道からの継続した指導体制の構築が望まれるが、こういうハード面に加え、「魅力のある柔道」というソフト面への充実強化が重要ではないかと思っている。
佐賀県には地域と一体となって熱心に柔道に取り組み、子供たちも生き生きと柔道に励んでいる少年柔道クラブがいくつか存在する。その内の一つを紹介すると、昨年11月にその少年柔道クラブが、結成35周年記念の柔道大会を開催した。クラブ結成後35年間の歩みを辿ってみると、全国大会での優勝や準優勝など輝かしい成績を収めているほか、県内では常に少年柔道のトップグループに位置し、佐賀県の少年柔道をリードしてくれている。このクラブの運営に熱意ある指導者の存在があるのは当然であるが、これに加え保護者会、このクラブを巣立った子供の親たち、つまり保護者OB会などが一生懸命支援活動を展開している。このような地域を巻き込んだ活動が子供たちを奮い立たせ、やる気を起こさせる原動力となっており、柔道が子供たちや親にとって魅力のあるものとなっている。
私は、佐賀県のような小さな県での柔道の活性化のカギは、ここにあるのではないかと思っている。活性化のための一つの方策として、子供たちを支援するための組織作りに加え、子供たちの親に対しては、柔道に対する理解と共感を得るために、受身を覚えるだけでも良いから「子供と一緒に柔道をやりましょう」と呼びかけているところである。このことにより、柔道を通じて親が子供を理解する、子供が親を尊敬するという心の交流が生じるのではないだろうか。そういう交流の中で指導者や親、子供たちが柔道について真剣に話し合い、将来子供たち一人一人がどのような柔道を目指すのか、明確な目標を持たせることにより、子供たちにとって「魅力のある柔道」につながっていけばと思う。
また、私たち柔道協会関係者が取り組まなければならないものは、少年柔道から高校までの一貫した指導体制の構築である。
佐賀県では、中学校に柔道経験のある指導者が配置されているのは5〜6校という寂しさであり、平成24年度から中学校での武道必修化が実施されることから、早急な指導体制を構築する必要がある。このような状況の中で、全柔連において「指導者資格付与制度」が導入された。これは柔道事故を防ぐという安全指導がメインであり、子供たちの命を柔道事故から守るということが一番重要視されるべきものであり、柔道事故により取返しのつかないことになれば、魅力も何もあったものではない。
佐賀県柔道協会においても昨年8月に指導者資格取得のための講習会を開催し、多くの指導者に受講していただいた。今後もこの講習会を随時開催し、指導者の拡充強化と資質向上を図っていきたいと考えている。そして、資格取得者にあっては、各地域の中学校での柔道授業や部活動に積極的に関与し、指導に乗り出すようにお願いしている。このことが小学校から中学校、高校までの一貫した柔道指導体制となり、柔道の活性化につながっていくのではないかと思う。
柔道は人間形成に大いに役立つ武道である。嘉納治五郎師範が古来の柔術の良いところを選りすぐって考案された柔道は、身体や精神力を強くする作用と人間としてのあり方を教える徳育を主体に考えられた素晴らしい武道である。つまり、嘉納師範が教義として唱える「精力善用」「自他共栄」は、柔道の究極の目的となっている。これは、今の日本に一番大事なことではないだろうか。将来を担う子供たちに柔道を通じて逞しい身体と何ものにも負けない強靭な精神力を身につけさせ、社会に貢献できる有為な人間を育てることが、柔道人たる我々に求められている使命と考える。
その中心的役割を担うのは指導者のたぎるような情熱であり、その情熱が子供たちの心に響き、親を動かし、地域を巻き込み「魅力のある柔道」となっていくものと確信する。そして、このことが地域柔道の活性化につながり、子供たちを社会に貢献できる心身ともに健全な人間に育て上げることができるものと期待している。
(佐賀県柔道協会会長)
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