今月のことば
2013年07月
心の柔道
『総合武道館』創設の想い
冲永 佳史
本格的に積み上げた競技経験はありませんが、私自身、幼少時より柔道への想いは強く、客観的な立場から、また学長という視点からも、武道・スポーツは学校教育に欠かせない存在として考えております。帝京大学では学生にそのエネルギーと情熱を自らコントロールできるマネジメント力、そして知識を身につけてほしいという思いから、武道・スポーツを通じた学生教育を行っています。自分自身を最大限生かすための考え方を学習し、自らを醸成し訓練・成長する格好の場として運動部を位置づけています。
本学の学術ポリシーの一つとして『実学』が挙げられます。我々が目指す『実学』とは自立した存在となるための学びです。大学は、学生がそれまでに経験し培ってきた多様な文化・知識を吸収し、さらに伸ばしていく場となりますが、学生にはそれをしっかりと理解・咀嚼して、自身の中で体系化する鍛錬をして欲しいと考えています。達成した経験の積み重ねは成長の糧となります。そうした生きる姿勢を学ぶことがまさに『実学』であると考えます。
話を武道に戻しましょう。本学では今春、八王子キャンパスの程近くに『帝京大学総合武道館』をオープンしました。3階建て・地下1階からなり、すでに柔道部、空手道部、剣道部を中心にその活動を開始しております。部員たちにはこの武道館を通じ日本の伝統武道をしっかり継承し、一層練習に励んで欲しいという願いから、外観は和風でモダンな設計を基調としました。
その中身についても少し触れておきたいと思います。大きな特長の一つとして挙げられるのは、同武道館が『帝京大学スポーツ医科学センター』(後述)と連携することで、選手の全面的なバックアップを可能としている点です。
本学医療技術学部とタイアップし、館内には鍼灸師、柔道整復師、整形外科医などが常駐しているため、万一、練習中に負傷しても即座に対応し、復帰までの最短・最善のステップを踏める環境にあります。もちろんケガは未然に防ぐことが重要であり、スポーツ医科学センターのトレーナーや管理栄養士などと連携し、あらゆる側面からアスリートをサポートする万全の態勢を整えています。近い将来には、近隣住民にも幅広く活用いただく予定で、すでに近隣地域の小・中学校武道大会の会場としても解放し始めております。
今年1月に行われた武道館竣工式では、講道館指導員による『古式の形』の演技をご披露いただきました。『古式の形』とは甲冑を着て戦場で鎧組討ちをした際、相手を投げて制するための方法が形としてまとめられたと伺いましたが、当日は甲冑を着た姿やその時代背景を思い浮かべ、当時の戦場にタイムスリップした感覚に陥りました。『古式の形』が引き継がれてきた所以は、「柔道の勝負上の精妙な理合いの原則を理解させるため」とされていますが、改めてその奥深さに触れる絶好の機会となりました。
学生にも、武道の精神の1つである礼儀・努力・敬愛・自立、そして日本人らしさを常に意識して、同武道館を通じ精神と身体をバランスよく養っていってほしいと考えております。
"心の柔道"
本学では平成23年より附属病院のドクターや医学部、医療技術学部教授らが中心となり『スポーツ医科学センター』を開設しました。「全国大学ラグビー選手権」において史上初の4連覇を達成したラグビー部を1つのモデルに、センタースタッフが蓄積してきたノウハウを各運動部に伝えるべく、コーチング方法やケガの予防・栄養管理、また治療、リハビリーテーションに至るまで、専門領域のプロフェッショナルが集うセンターを立ち上げたのです。
同センターの「スポーツは医科学的な視点から検証していく必要性が高く、"勝敗云々"のみではその成果を評価しきれない」という考えに基づき、各運動部を全面サポートし始めており、設立2年目を迎えた昨年度は、ラグビー部以外にも、「箱根駅伝」のシード権を奪回した駅伝競走部の第4位入賞を支え、また空手道部からは世界王者を同時に4名輩出する要因の1つとなりました。今後は運動部強化のツールとしてだけでなく、同センターの研究成果をプロスポーツ界や高齢者の健康増進等にも役立てるなど、研究教育領域の開拓にもつなげていきたいと考えております。
最後になりますが、柔道と武道への想いを簡単に述べさせていただき、結びとしたいと思います。周知の通り、平成24年から全国の中学校で武道の必修授業が導入されましたが、これまで以上に武道が子供たちに与える影響は大きくなっていくと考えます。今後は"必修以前"と比較し、武道経験者は飛躍的に増えていくこととなりますが、今回の新たな試み(武道の必修化)は、競技の基本を確実に身につけるだけに及ばず、日本古来から続く"心の継承"という側面からも、大きな役割を果していくのではないでしょうか。
昨年、本学女子柔道部は『全日本学生体重別団体優勝大会』で初優勝を達成しましたが、その成果は矢嶋明監督が掲げる"心の柔道"を部員たちが理解し、また谷亮子、松本薫両先輩に代表される先人からの "DNA"をきっちり継承してきた賜物です。
これからも柔道競技・武道の精神、そしてスポーツの存在は「日本人の心」にかけがえのないものとして、受け継がれていくことでしょう。
(学校法人帝京大学理事長、帝京大学学長)
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