今月のことば
2011年12月
必修化に伴い柔道の授業 安全確保を ―専門指導者の増員重要―
宮城 進
学習指導要領の改定により、2012年度から中学の保健体育授業で武道が必修となる。中学1・2年生は多くの種目を経験する時期とされ、伝統文化の継承発展などの理由から武道が必修となる。特に柔道は、これまでの学校教育の中で最も定着している武道の一つで、新学習指導要領の下、多くの学校で指導が行われることになるだろう。
長年、中、高校の先生方に柔道指導をしてきた身としては喜ばしいことである。武道(柔道)は人間完成の手段として我が国の歴史的背景から、自然発生的に形作られ「文武両道」が唱えられ理想とされてきた。この理想は、現代社会においても適切とされ「知・徳・体」の理想を育てる教育に用いられている。日本の伝統文化といった面からの特性と伝統的な行動(躾)や内面的な心の教育、いわゆる道徳的要素が「心と体」を育てるのである。科学と哲学的理想の両面を育てる柔道の理念が成り立つのである。武道(柔道)は、日本独自の人間形成の手段として教育的配慮が加えられ、体育教材に位置づけられてきた。今後、学校柔道を指導するに当たっては、指導者の「武道指導の定義」付けを確立することが大切である。教育も人間の内面的な部分に目が向けられるようになってきた。そのことは、自ら学び「自発的、主体的」に行動できる人間、いわゆる自己教育力の育成を目指すことにある。
嘉納治五郎師範は、柔道の「究極的な目的は、人間完成にあり」とし、これを実生活に応用させることが「精力善用」「自他共栄」であるとされた。すなわち、自己の持つ体力、精神力を最も有効に活用し、さらに時間空間の効果的活用を意味しているものと解釈する。
これは、自ら学ぶ「自己教育力」を身につけるとともに、自己と他との在り方を学び、自他共に高め発展していくことを意味している。つまり柔道は、「心・技・体」を育てる教育的スポーツとして学校教育の中で最も適切な種目であると考える。
一方、柔道指導の上で、安全性の確保は我々の永久的課題である。特に学校での指導では、安全性を最優先に取り組むべきであろう。しかし、残念ながら事故は起きている。2月15日付けの沖縄タイムスの教育面では、柔道事故について大きく報道された。事故の背景について「指導者の問題」「無謀な指導」「授業内容の問題」「施設(予算)の問題」などが指摘された。長年の経験から「柔道場(施設)の改善、充実」「専門的指導者の確保」をすれば大きな事故を防ぐことができると私は確信している。しかも、教師個人では解決不可能な大きな課題であり国、県レベルでの対策が不可欠である。
まず、「柔道場の施設の充実改善」について、発達途上にある身体の完成されてない中、高校期の生徒のためには、特に安全面を最も優先し道場の床の硬さ(クッション)や道場の広さが確保されなければならないと考えている。県立武道館や大学の道場などは、床そのものにクッションがあり、道場の広さも十分に確保されている。しかし、授業や部活動で使われている学校の柔道場ではほとんどが硬い床の上に畳を敷いただけであり、また狭い場所での練習は一歩間違えば事故につながりかねない状況である。この問題が解決できれば事故防止に大きく前進するのではないだろうか。
もう一つの「専門的指導者の確保」については、学校現場での専門的指導者が極端に少なく、専門外の教員が指導をしているのが実状である。指導力向上のために、県教育庁保健体育課が毎年、中学、高校教員を対象に指導者講習会を行っているのは、安全面の充実を狙っているからであると思う。さらに、先を見通した無理、無駄の無い適切な安全指導を実現するためには「力量と情熱」のある専門的指導者をもっと多く導入することが重要だと思う。
柔道人口の減少(衰退化)傾向は全国的に及んでおり、我々柔道関係者にとっては誠に深刻な問題である。競技力向上の基礎は柔道人口の底辺拡大であり、その基は、何といっても指導者の影響が大きいことはいうまでもない。柔道の指導者確保の問題は地方に行けば行くほど大きな課題であろう。本県の柔道の専門的指導者は極端に少なく、最近(平成12年)あたりから各種大会への参加校は10校前後になり、誠に深刻である。
学校(中学、高校)柔道の充実、発展は指導者の増員が大切である。今、課題となっている「安全指導」や「柔道の底辺拡大」「競技力向上」等々の問題解決につながってゆくものと考えている。
柔道は世界に誇れる我が国固有の伝統文化で、青少年の心身を鍛えるに最もふさわしい武道だ。国や県が十分な対策を立てることで青少年がより安全に学ぶことができると考えている。
(沖縄県柔道連盟会長)
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