HOME > 今月のことば > 2008年11月

今月のことば

2008年11月

実業柔道の役割

山 口 信 夫

 平成11年に故齋藤裕会長(元新日本製鐵会長)の後を受けて全日本実業柔道連盟会長に就任してから9年が経過いたしました。この間、さまざまな取り組みや催しを行ってきましたが、最初に私の柔道との関わりについて若干お話させていただきます。

 私が育った旧制中学校時代は、戦時中でしたので武道が盛んに行われており、柔道か剣道は必修科目でした。私は剣道を正科に選びましたが、柔道も大好きで友人とよく稽古をしましたし、相当強かったです。また、教練(軍事訓練)の時間には教官からよく相撲や柔道をやらされたことを覚えています。昭和17年に陸軍士官学校に入校し、剣道や柔道や銃剣術でよく鍛えられました。その後出兵し不幸にも抑留生活をおくることになりましたが、その時の厳しい環境に耐えるのに、武道で鍛えた体力と精神力が大いに役立ちました。

 終戦後、東京商科大学(現一橋大学)で学び旭化成に入社しました。私の入社当時、当社では、社員の体力増強や福利施策の一環として柔道、陸上、バレーボール、水泳など多くの運動部を持っており、勤労部門がその運動部を担当していました。私は、初任配置が勤労部門でしたので、自然に運動部員と接触する機会が増え、柔道部員とも親しくつきあってきました。ちなみに、当時の当社役員の3分の1は柔道経験者でした。また、当社に限らず東レ、帝人、クラレといった繊維各社の労務部門には旧制高校で柔道を学んだ人たちが多数居られ、労務委員会で運営していた「繊維柔道大会」は大変な盛り上がりを見せていました。この労務委員会では賃上げや制度改正といった仕事の議論の後、会議終了後の柔道の話題に皆が一層白熱されていたのをよく憶えております。こういうご縁もあって平成4年に延岡に当社の新柔道場ができた時、丁度私が会長に就任した年でもありましたが、頼まれて道場の正面入口に私の書いた額を掲げました。

 当連盟は、昭和26年に全日本勤労者体育連盟柔道部会として発足し、その後改称や合併を行い現在の形となったのは昭和37年であります。初代会長が永野重雄さん(元新日本製鐵会長)、2代目が宮崎輝さん(前旭化成会長)、3代目が齋藤裕さん(元新日本製鐵会長)と、実業界の偉大な先輩方が実業柔道の礎と今日の隆盛を築いてこられました。その後を受けて会長をお引き受けしたわけですが、その責任の重さと役割の大きさを鑑み、平成13年に日本商工会議所会頭に就任した際には多くの役職を整理しましたが、全日本実業柔道連盟の会長と日本防衛協会会長だけは引き続きお引き受けすることといたしました。

 さて、実業柔道の目的は、世界の頂点をつかむ強い選手を育成していくことはもちろんですが、柔道の鍛錬を通しての人格形成、すなわち「よき柔道人、よき企業人、よき社会人」を養成し、わが国産業界の健全な発展に寄与することであります。そのために、学生時代に懸命に柔道に打ち込んできた若者が、社会人となっても柔道に真摯に取り組める環境を整えることも大きな役割と考えます。幸いにして、実業柔道を支える会員企業は年々増加し、発足当初22社であったものが現在は10倍強の238社までに成長しています。これは、各企業の経営者の皆様のご理解の賜であると深く感謝いたしております。近年は、経済的状況から廃部や休部に追い込まれる企業スポーツが多い中、多くの企業が引き続き柔道を支援していただけるのは、柔道が勝ち負けだけではなく、厳しい稽古を通じて心身を鍛える教育的要素を備えた『武道』であり、その柔道を修行する社員がそれぞれの会社の中で頑張っているからだと考えております。スポーツ選手が自分の身近な職場にいて頑張っている、その職場の人達はその選手を応援するとともにその姿を見て自分自身も頑張ろうと思う、それが企業スポーツの効用で、柔道はその最たるものだと思います。 

先の北京オリンピックで、創始国である日本柔道は金4個、銀1個、銅2個を獲得し世界NO.1の地位を何とかキープしてくれました。全世界に普及しその実力が大変拮抗している中でよく健闘し頑張ってくれたのではないかとも思いますが、日本柔道危うしの印象を持った国民の皆さんも多いのではないかと思います。ルールについても日本古来の柔道から少しずつ離れてきているように思います。また、体重別制を重視することも大事になりました。厳しい環境下ではありますが、柔道がより広く国民に夢や感動を与え支持されるためには、やはり国際的に通用し、そこで勝たなければなりません。ご承知のとおり、北京オリンピック日本代表のほとんどが実業柔道の選手でありました。会員会社のご理解とご協力の下で精進した成果であると、感謝しております。当連盟は、先輩達の築き上げてこられた古き良き伝統を引き継ぎ、今後も常に世界のトップに立つ技術・精神力を育成する場としての各種競技会の開催はもちろんのこと、人材育成の意味も含めた海外派遣事業や講習会事業などを積極的に展開していきたいと考えております。そして、スポーツ活動を通じて活力ある日本づくりに寄与するとともに、国際社会に貢献していきたいと考えております。

(全日本実業柔道連盟会長)

最新記事