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今月のことば

2017年8月号

公立大学柔道部における部員獲得への取組み

村田啓子

 国立大学柔道部の多くが部員減少に苦慮しているそうだ。筆者は柔道家ではないのだが、1年半ほど前に、学生から依頼され勤務先である首都大学東京(旧東京都立大学)の柔道部顧問(部長)となった。部員減少は本学柔道部でも喫緊の課題となっている。本稿では、国立大学の柔道部員数の現状を概観した上で、まだささやかな試みではあるが、本学柔道部における部員獲得の努力についてご紹介したい。

国立大学の柔道部員数の現状
 国立大学の柔道部員数の統計はなく正確な数値は分からない。そこで、「全国国立大学柔道大会」プログラムにより1992年以降の出場大学数及び人数を調べた。1992年が43校(424名)、その後90年代に減少した後若干持ち直し、2016年は42校(349名)である。参加大学数がほぼ同数なのに対し、参加人数は18%減、これは国立大学男子学生数の減少率(2016年の92年比で9%減)よりも大きい。旧帝大戦日程の影響などもあり一概に言えない面もあるそうだが、この間の変動を簡単な回帰分析で検証すると、参加大学数が1%減少すると参加人数は0.7%減少し、男子学生数が1%減少すると、参加人数は0.3%減少するという結果が得られる。数値はあくまで目安であるが、この結果は参加人数減少の背景として参加大学数及び男子学生数の減少双方が影響していることを示唆している。男子学生数の減少トレンドが今後も続くとすれば、国立大学においても何もしなければ男子柔道部員が今後減る可能性は高いだろう。運営費交付金毎年1%削減の影響もあり教員は一層忙しく、かつ教員補充もより困難になっていると聞く。
 また、特にこの10年の傾向として顕著なのが大会参加登録人数10名を下回る大学数の増加である。以前から10名に満たない大学は存在したが、最近は過半を占めるようになった。この点は主催者側も懸念していて、2015年の大会会長挨拶でも指摘されている。講道館で開催される全国大会への参加は継続しても、参加人数10名を満たせない大学が増えている。国立大学内での「柔道部格差」が広がっているのかもしれない。

首都大学東京柔道部における取組み
 首都大学東京は公立大学である。学生はセンター試験を受けて入学し、教員は外部資金を獲得し研究で成果を出すことが期待され、さらに教育および大学の雑務に追われる毎日という点では国立大学と共通する点も多いと思う。しかも、本学には教育学部も体育系の学部もない。顧問も10年以上不在であった。OBから伺った話では、かつて東横線の都立大学駅近くに立地していた頃は、同じ目黒区にある東京工業大学キャンパスで同大学との合同合宿が慣例だった時期もあったそうだが、多摩地域に移転した現在はそれもない。
 本学柔道部の新人獲得の取組みは、試行錯誤の過程にある。私が顧問を引き受けた2016年1月、部員は4年生1名、3年生6名、2年生1名、1年生2名(うち1名は主務)であった。3年秋になると主将を2年に譲り、以降は普段の練習は自由参加となるため、実質3名(プレイヤーは2名)というまさに存亡の危機にあった。さて、どうすべきか。まずは各部員から意見を聞くこととした。
⑴ 部員が皆で考える
 幸いなことに、学年を問わず、皆様々なアイディアを聞かせてくれた。以下はその多くがその時に聞いた意見の延長にある。つまり、私自身は学生たちからアイディアを聞きそれを皆に伝えるきっかけを作っただけで、以下は主将を中心に全て部員たちが自ら判断して実行している。
⑵ 広報・勧誘活動
 まずは柔道部を1人でも多くの学生に知ってもらわなければ始まらない。そこで、ホームページをリニューアルし、ツイッターでもより積極的に発信するようにした。また、入学直後の新入生勧誘日は柔道衣を着て参加する、部員と新入生との腕相撲大会、他の部とも協力し「武道系合同説明会」を行うなど、柔道部の存在をアピールするための機会を増やしかつ多様な活動を行った。
⑶ 経済的負担の軽減
 運動部の活動に大学からの経済的補助はなく、柔道部の財源は文化祭での模擬店による収入及びOBからの支援による。財源は豊かとはいえず、また生活費のためのバイトと掛け持ちの部員もいる。とはいえ収入に制約があっても支出を工夫することはできる。本学はキャンパスが4箇所にあり、柔道場のあるキャンパスに定期券では通えない部員もいる。そういう部員の負担を軽くするため、交通費補助の基準を決める等の見直しを行った。
⑷ 女子部員
 柔道をやってみたいと思う女子は密かに存在している。女子も入りやすい雰囲気作りは重要である。
⑸ 国際化
 多くの大学と同様に、本学でも留学生が増加している。今年5月時点で36ヵ国から477名を受け入れ、全学生数の5%を占めている。特に秋学期初めには留学生にも積極的に勧誘を行うこととした。
⑹ OBからの非経済的支援
 本学柔道部に現在師範はいない。ただし、土曜日には研究や仕事で忙しいなか練習に参加するOBや院生もいる。そこで、新歓の時期にはなるべく来てもらうよう依頼した。
⑺ 目標を持つ
 「新入生5人獲得作戦」と銘打ち、当時としてはあえて高めの目標を立てた。何事も目標を持つとモチベーションも上がると共に、部員の結束も一層強まるのではないか。  これらの結果、部員の熱意が新入生にも通じたのか、幸い昨年度は5名(うち女子2名)、今年度は4名(同1名)が入部した。女子は全員未経験者である。加えて留学生部員も誕生した。1年以内の短期留学生も受け入れているため変動はあるが、男女合わせ2?4名程度在籍している。国籍は欧・米・豪・アジアとグローバルである。

今後に向けて
 部員数が今後どうなるかは未知数であるが、今までのところ、部員獲得には、経済的負担を極力抑えることと入部しやすい環境づくり(練習を含めた部の雰囲気)が重要ではないかと思っている。経済的負担抑制のためにはOBと友好な関係を維持することは必須で、OB会などには私も出席するようにしている。
 部員は皆「柔道は楽しい」という。目はきらきらと輝いている。部員には、「柔道を好きな人が1人でも増えれば良いのだ。だから短期留学生にも門戸を開き、柔道を好きになって帰国してもらうことが重要だ」と伝えている。筆者自身、海外勤務の際に、柔道ファンが海外にも多いことを知りとても嬉しくかつ誇りに思った経験がある。学生たちには柔道を通じて心身を鍛え成長し、これからさらに先行き不透明となる将来、願わくば海外に羽ばたいた時の国際交流にも役立ててほしいと思っている。
 最後に、本稿執筆にあたり、国立大学大会の運営に取り組んで来られた野瀬清喜(埼玉大学)、射手矢岬(早稲田大学)両教授からご意見や資料の協力を得ました。感謝申し上げます。
                         (講道館評議員、首都大学東京教授)

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