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今月のことば

2015年11月号

知性と感性

 ― 不明なるもの滅すべし ―

水谷 弘

 

情報源の1つであるインターネット百科事典(Wikipedia)の「柔道」の項では、日本伝講道館柔道と並び、七帝柔道(高専柔道)が起倒流と共にとりあげられています。
 私は、この高専柔道の伝統と精神を継承する七大学柔道(七帝大の流れを汲む、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の7校で構成)に、現役、さらには卒業から現在に至るまで、長年にわたり関わってまいりました。

 高専柔道は、高等学校専門学校柔道優勝大会の略称であり、大正3(1914)年に始まり、27年間にわたって開催され、戦時体制移行に伴い中断されましたが、柔道の寝技発展に寄与するとともに、多くの有名選手も現れ、同時期に始まった高校野球に匹敵する注目を集めました。同時に、心技体を鍛えた多くの有為の人材を輩出しました。
 その間、嘉納治五郎師範は、あまりの寝技偏重を是正されようと、当時高専柔道を主催した京都帝大柔道部を2度にわたり訪問されましたが、お互いの立場を尊重する形で決着に至ったと、京都大学柔道部では伝承されています。路線は異なれど、「柔道を心の故郷」とし、柔道を尊崇する気持ちには変わりなく、京都大学柔道部では、嘉納師範揮毫の「精力善用」「力必達」「擇道竭力」「養氣館」の4額を、今なお大切に所蔵しております。

 戦後、学校柔道が解禁された昭和27(1952)年には、七大学柔道がそのルールと技を引き継ぎ、全国七大学柔道優勝大会(七大戦。七帝戦とも引用)として再開し、「15人の団体勝抜き戦」「勝負判定は一本」「引き込み可能」「場内引き戻し」等のルールにより、年1回の開催で64回を数えています。また、平成21(2009)年には、高専柔道発祥の地である京都の武徳殿前に、「高専柔道之碑」を建立し、250人余の関係者が集まって記念式典を行いました。その様子は、この機関誌『柔道』にも、掲載されました。
 なお、旧学校制度は中学が原則5年であり、旧制高等学校は戦後の大学制度の教養課程の年齢にほぼ該当し、年齢継承面でも齟齬をきたしていません。  また、平成26(2014)年は、高専柔道発祥から100年に当たり、その記念事業として、七大学柔道選手団(総勢25人)をフランスに派遣し、七大学合同での初の海外遠征を実施しました。この事業は、七大戦にも匹敵する価値があると思われ、今後も4年毎ですが、継承に向けての努力がなされています。この遠征は、9月4日から15日の11日間、クレイユ、アミアン、パリ、ボルドー等各地を歴訪したものですが、実行委員長としてお世話させていただいた立場から、その感想と意味合いについて触れたいと思います。

 IJF運営の主体を担うフランス柔道連盟(仏柔連)の全面的なご支援と、後援をいただいた日本武道館を始めとしたスポンサーの方々、及び4000人余の七大学柔道OBのご援助を得まして、今回遠征を成功裡に実現しました。また、スローガンは、「Exchange?Intelligence(知性に還れ)」として、文の重要性を旗印に掲げました。
 特に、フランス柔連には、受入れ先の設営、移動、宿泊についてお世話になり、宿泊費の一部負担等を含め、過分なご配慮をいただきました(Rouge 会長、Brousse 副会長以下の方々、粟津先生、重岡先生、安本様等現地での日本の方々)。また、各地の市長を始めとした関係者の熱烈な歓迎とおもてなしを受けましたが、この貴重な体験をもとにして、今後の団員一同のグローバルな展開にも期待しています。

 現地では、教育的価値を基本としたフランス柔道(登録約60万人)を目のあたりにし、柔道指導に対する認識を深めました。特に、国の資格認可事業としての指導者の育成、モラルコードを中心とした礼儀と尊厳への決意、14歳以下の児童に対する試合の制限を含めた安全への配慮等、法律で体系化された組織運営は、感嘆に値するものがありました。
 また、現地での高専ブームもあり、その流れを汲む七大柔道ルールでの試合を、勝抜き戦を含め実施出来ましたが、これは、仏柔連の寝技オープン拡充を含めた寝技への取り組み姿勢があり、これらに七大学柔道も一定の貢献が出来たのではないかと思います。さらには、今後とも七大柔道ルールの国際伝播の余地のあることも確信しました。

 さらに、柔道を国技と言ってはばからないフランス柔連上層部の揺るぎなき自信と誇りを見聞するにつけ、本家日本柔道の現状に想いをいたさざるを得ません。平成25(2013)年の不祥事発覚以降、関係の皆様の大変なご尽力により、改革は現実のものとして猛烈な勢いで進んでいますが、昨今の柔道人口の減少等を見るにつけ、効果面では、まだ端緒についたばかりであり、なお道半ばの感を否めません。また、柔道界全体を俯瞰した組織・人事面等を含めた、積み残した問題もあろうかと思います。

 組織のオーガナイザーとして抜群の才覚を発揮された嘉納師範、その最たるものは、「知性とそのバランス感覚」にあったのではないかと思います。この度の柔道改革の流れの中では、講道館もまた「方向性を堅持した、変化対応」は不可避のものではないでしょうか。嘉納師範の感性に照らしたさらなる対処が望まれると思います。
 今回の遠征では、全柔連が不祥事対策の渦中にあって、日本武道館の後援をいただきましたが、全柔連、講道館の関係の皆様には、事前の報告をさせていただきました。また、遠征終了から間もない昨年10月には、全柔連の皆様から、直接パリで、Rouge 会長以下に遠征のお礼を言っていただきましたことは、実施当事者にとって、大きな喜びでありました。

 昨年6月には、講道館改革の一環として、評議員に就任しました。競技出身でない大学柔道部員(有識者)としての選任ですが、純粋の外部登用ではなく、「柔道を心の故郷」とし、柔道を知り愛する者として、また七大学柔道OBの4000人余の人脈と、その強固な団結を信じて、スピード感を持った改革への取り組みに参画し、評議員としての職責を果したいと存じます。
(講道館評議員、ウェスト・イースト株式会社 専務取締役)

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