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柔道と礼、その精神

道場における柔道は、相手があってこそ学ぶことができ、また試合をすることが出来ます。ですから、相手となる人には、特に礼をつくすべきでしょう。
試合に出場し、また応援する際に、勝ちたい一心の邪念のとりこになり、相手がケガをしようと構わないからと無茶な動作に走ったり、相手を罵倒したりすることは、もっとも慎むべきことです。

武道は、荒々しい技や動作の攻撃が主になることから、奥にある礼や和の精神がなおざりにされて粗暴なだけの争いにならないように、「武道の稽古は礼に始まり礼に終わる」と礼の精神が強調されてきました。
今日の柔道においても同じで、強ければ強いほど礼の精神を保ち、他を活かす自他共栄の心情・態度でいなければなりません。

上の人から自分にされて嫌だったことは、下の人に対してしてはいけません。前の人からされて不愉快だったことは、後ろの人にしてはいけません。しかし、人は自分が他人からされて、はじめて何が人に不快感を与えるか分かる場合が多いことも事実です。
柔道を学ぶ私たちは、自分の行動が他人に迷惑や不快感をあたえないかどうか、十分に考え、推し量って行動すべきでしょう。柔道を通して私たちが学ぶ礼の精神の根本には、相手の人格を尊重し迷惑をかけない心掛けがあるはずだからです。

礼儀として、目上の人に対する礼、同輩への礼、目下の人に対する礼などがあります。しかし今日、私たちが最も考えなければならない礼は、直接見えない人びとに対する礼、いわば公徳心・公共心に対する礼でしょう。
現代社会において、礼の精神に欠ける行動を見聞きすることが増えましたが、柔道の修行者は、他の人びと以上に、道場で礼の根本的な心情や態度を養っているといえます。ですから、実生活においても、少しでも礼に欠けることなく、礼の精神を持ち続け、社会の規範になってほしいと願います。

参考:『日本の武道柔道』老松信一