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令和3年 全日本柔道選手権大会観戦記

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 令和3年 全日本柔道選手権大会は、コロナ禍の影響の為、昨年に引き続き講道館大道場において無観客での実施となったが、好天に恵まれた12月26日、厳かに開催された。本大会は、全国10地区から選出された40名に4名の推薦選手を加え、44名(2名欠場)の精鋭による激闘となった。参加44名中、17名が初出場ということもあってか、序盤戦こそ、やや硬さの目立った試合が多かったものの、試合が進むにつれて好試合が多く見られ、終わってみれば、全43試合中17試合が一本勝、12試合が優勢勝という素晴らしい内容であった。そこには、本大会ならではの、勝敗だけにこだわらない、力と技による真っ向勝負の伝統が、脈々と受け継がれており、全日本選手権の大きな魅力を再認識させるものであった。

 

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 令和3年最後の日曜日に行なわれた本大会は、昨年優勝の羽賀龍之介選手(旭化成)、準優勝太田彪雅選手(旭化成)、2021年世界選手権大会100K g超級優勝の影浦心選手(日本中央競馬会)らに新進気鋭の選手達が、どんな戦いぶりを見せるかが注目された。しかし、今年、グランドスラム・パリ100K g超級で優勝し、3年後のパリオリンピックに向けて大きなステップにすることを目指していた斉藤立選手(国士舘大学)が、全日本学生体重別団体優勝大会で負った怪我が完治せず欠場した他、今年こそはと意気込んでいた小川雄勢選手(パーク24)も大会直前の怪我で欠場となり、盛り上がりが心配される様相となった。

 

 三強の一角、羽賀選手は、初戦、3回戦、4回戦と粘り強く戦ってくる相手に手こずり、苦戦を強いられた末での準決勝進出となった。現世界チャンピオンの影浦選手も優勝を意識して硬くなった為か慎重な試合展開が続き、4回戦敗退となった。4回戦で影浦選手を破った垣田恭平選手(旭化成)は、影浦選手とは対照的に1回戦で全日本ジュニア100Kg超級チャンピオン中村雄太選手(東海大学)を開始早々の背負投一本で屠ると、2回戦、3回戦も技のポイントを奪って勝ち上がり、影浦選手撃破につなげた。一方の山では、太田選手が実力を発揮して順調に勝ち上がった。特に4回戦の尾原選手(旭化成)を投げた内股の冴えは、素晴らしいものであった。最後の山からは、ベテラン対決(七戸選手・熊代選手)を制した王子谷剛志選手(旭化成)が勝ち上がり、準決勝進出者が決定した。

  

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 準決勝戦、羽賀選手対垣田選手の一戦は、お互いを知り尽くした同門対決となり、ゴールデンスコアにもつれ込んだが、羽賀選手が一瞬の隙をついた内股からの小内刈を決めて「技あり」となり、決勝戦進出を決めた。もう一つのブロックも、大学・所属ともに同門の太田選手と王子谷選手の対戦となり決め手に欠く展開となったがスタミナに優る太田選手が攻め続け、ゴールデンスコア1分52秒、王子谷選手に3つ目の「指導」が与えられ、太田選手の決勝進出が決定した。

 

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 決勝戦、昨年と同じ顔合わせではあったが、対戦する両者の心理状態は、大きく違っていた。昨年、この大会の決勝戦で羽賀選手の内股に宙を舞った太田選手、挑戦者として再び、全日本選手権決勝の舞台に立ち、その獲物をねらうような眼光の鋭さは、とても印象的であった。一方、羽賀選手はディフェンディングチャンピオンとして、若手の挑戦を再度跳ね除けるべく臨んだ決勝戦となった。日頃の稽古で培った技と力をすべて出しきり競い合う羽賀・太田、両雄の対決は、間違いなく最高峰の戦いであった。そして、その位置まで登りつめた二人の勝敗を分けたもの、やはりそれは、精神力以外の何物でもなかった。わずかな気持ちの差が明暗を分けた。決して反則で勝つ事など考えず、互いに「一本」を取りに行き力を出し尽くした戦い、繰り出す一つ一つの技に、両者のこれまでの苦悩とそれを乗り越える為の、すさまじい稽古の様子が思い起こされる素晴らしい決勝戦であった。勝負は、終盤疲れの見えた羽賀選手が下がるところに太田選手のタイミングの良い小外刈が決まって「技あり」となり、太田選手が初優勝を果たした。最後まで挑戦者としての態度を崩さず、攻め続けた太田選手の姿勢は、新チャンピオンにふさわしい風格にあふれていた。「勝負に勝つ」ということは、とても大切なことである。しかし、負けた時こそが人を大きく成長させるチャンスでもある。最高峰の柔道家が昨年の敗退を糧に成長し、1年後雪辱を果たす。その真摯な姿は人々に感動を与え、レベルの違いはあっても同じように悩みながら柔道を学んでいる子供達にとって大きな目標となるだろう。

 

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 新型コロナウィルス蔓延による影響で、2020・2021年の全日本選手権は、無観客・講道館での開催となった。講道館大道場において、嘉納師範が見守る中行われる全日本選手権も良いものであると感じるが、この素晴らしい戦いを現場で、できるだけ多くの人に見てもらいたいという思いを強くした。講道館創立140年を迎える令和4年(2022)こそは、本来の場所である日本武道館に会場を戻し、満場の観客のもと全日本選手権大会を実施したいと考えている。その実現の為にも、柔道界を挙げてコロナ対策を行ないコントロールできる体制を作って行かなければならない。(m.m)

 

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