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"スペシャルニーズ柔道"の形演技会・意見交換会が行われました

 オランダから、障がい者を対象とした柔道について研究しているケース・ルスト氏とその協力者3名が来館し、4月20日(木)14時-16時、講道館大道場にて、同氏らが工夫した形の披露と日本の関係者との意見交換が行われた。

 

 ケース・ルスト氏は、現在41歳。13歳で柔道の修行を始めたが、24歳のとき交通事故で頚椎を損傷し下半身不随となった。しかし、その後も柔道修行を続け、現在ではオランダ柔道連盟の三段、同国の柔道指導者資格も取得し、少年たちの指導にもあたっている。

 障がい者の柔道は、視覚障がい者の柔道がパラリンピック柔道競技として世界的にも普及しているが、同氏らは視覚障がいだけでなくダウン症等の知的障がいや肢体不自由などの身体障がい等を含んだ、障がい者全般に対応した柔道の研究開発とその普及に取り組み、これを"スペシャルニーズ柔道(Special Needs Judo)"と名づけている。

  

来賓と懸念撮影.JPGのサムネイル画像

写真:左からヨハン・スロフ(52歳・オランダ四段)、ヤニンケ・ルースマ(20歳・オランダ初段)、ヘルモンド・ヨン(51歳・オランダ三段)、ケース・ルスト(41歳・オランダ三段)、上村館長、木村徹也スポーツ庁審議官、門脇廣文大東文化大学学長、松下三郎理事

 

 平成27(2015)年にオランダで開催された世界"形"選手権大会においては、ルスト氏とヨン氏が、自らが考案した障がい者向けの「投の形」の演技を行った。

 今回の演技会・意見交換会には本館役職員、全日本柔道連盟広報委員会、障がい者柔道関係指導者のほかに、スポーツ庁、大東文化大学、スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム事務局、JICAなどからも視察があった。


形の演技

投の形(取ルスト 受ヨン)

投の形「送足払」(おくりあしはらい).JPG 投の形「内股」(うちまた).JPG

足で払うところを手で代用して技の理合を示す等工夫がなされていた。

 

固の形(取ルースマ 受ルスト)     極の形(取ルスト 受スロフ)

DSC_0209.JPG 極の形 立合「切下」(きりおろし).JPG

 

意見交換

形の演技後、意見交換会が行われ、はじめにオランダにおける障がい者の柔道の状況が紹介された。

オランダの柔道人口は約10万人。うち7,000人が身体障がい、知的障がい者である。障がい者は一般のクラブで修行したり、特別な障がい者のクラブで修行したりしている。

自分は下半身が不自由であるが、私が柔道をすることで「不可能なことはない」「リミットはない」ということを示したい。

私たちの形はまだまだ完成されたものではない。さらに稽古に励み、より発展させていきたい。

 

続いて日本側からの質問に、ルスト氏らが回答するという形で進行された。

Q: ルストさんは取を演じられたが、可能であれば受身も披露してほしい

大外刈(受).JPG(ヨン氏が掛けた各種の技にルスト氏が受身のデモンストレーションを行った後に)

A: 投げられて受身を取るだけでなく、受身を取りながら相手を投げるという稽古もしている。

A: ルスト氏は下半身が使えない上に上半身の力もまた弱い。相手の動きを利用することに重きをおいている。(ヨン氏の補足説明)

A: 誰にでもリミットがある。しかし何らかの解決方法はあるはずであり、それを見つけることを心がけている。

A: "これは無理だ""これはやってはいけない"というくくりをなくして、"まずはやってみること"が大事である。

 

 意見交換会の様子.JPG

 

Q: 日本の政府機関、大学などに望むことは?

A: 私たちが書いたスペシャルニーズ柔道の書籍を日本語に訳して皆さんに読んで頂きたい。

 

Q: 柔道を始めた動機は?

A: 強くなりたかった。ただし試合には興味なかった。技を習いたかった。畳に上がると無心になれた。

 

Q: この形は誰が工夫したのか?

A: 昇段を目指したときに審査項目に「形」があったので私(ルスト氏)が研究した。背負投は相手が重くて難しかったので、他の方法はないかと考えた。「崩し」「作り」を研究する必要があった。

 

Q: あなたは自分を障がい者だと思っているか?

A: 思わない。足が不自由なだけである。可能性はあるということを他の目の不自由な人、耳の不自由な人、知的障がいのある人に伝えていきたい。

 

Q: 健常者でも難しい「崩し」「作り」をあなたの演技に見ることができた。あなたの場合は怪我をする前に柔道をすでに修行していたということだが、障がい者になってから柔道を始めるというケースはどう考えるか。

A: 問題ない。障がい者にはそれに対応した指導の仕方がある。

 

Q: 講道館でも視覚、知的、肢体不自由などの障がい者が稽古に参加している。あなたは障がい者にはどのような指導から入っているか?

A: 寝技から始める。「相手のつま先をさわる」とか「5秒間だけ抑え込む」とかいったゲーム性のあることをさせる。ゲームでは最初は指導者が負けてやり、「達成感」「勝つ喜び」「自信を持つこと」を覚えさせる。

A: 知的障がいの子どもたちには同じことを何度も教えてやる。

A: ダウン症の子どもは頚椎が弱いので、首を抱いての袈裟固はしない、させないようにしている。

A: 障がいを持つ子どもたちには。みなそれぞれの問題がある。1人1人にどんな可能性があるのか見つけてやることが、障がい者を教える指導者にとって最も重要なことである。

 

 ルスト氏の「柔道には相手が必要である。そこに自他共栄の実践がある。この形を開発できたのも、3人の協力があってこそのことである。彼らに深く感謝している」という言葉で、予定時間を大幅にオーバーして意見交換会は締めくくられた。

 ルスト氏らが一貫して強調したのが「不可能なことはない」「リミットはない」ということであったが、実技を交えながらのルスト氏らの熱心な説明は、その主張を十二分に納得させるものであった。

 一同は「障がい者たちに自分の柔道を見せることで、それぞれに可能性があるということを教えたい。ノーリミット!」というルスト氏の思いに感銘し、また社会貢献のために柔道を活かすさらなる可能性を思いながら記念写真を撮影し散会となった。

全員で記念撮影1.jpg

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