青年海外協力隊奮闘記 vol.9 -パナマ共和国-
2016年4月 4日
パナマ共和国
小林幹佳
初出『柔道』平成24年8月号
■派遣国について
パナマ共和国は、人口約340万人、面積約75000平方キロメートルの小さな国です。季節は乾季が1月~3月、雨季が4月~12月で、1年を通して平均気温が約25~35℃。雨季の平均湿度は約85%と非常に蒸し暑い国です。交通手段はタクシーかバスを利用しています。電車がないため、車の使用率が非常に高く平日は常に渋滞していて、交通事故も多いです。首都パナマシティーでは現在地下鉄の工事をしていて、近い将来、交通渋滞が減少すると予想されています。食事は揚げ物ばかり食べている印象です。そして、パナマ米(長粒種)を炊くときにも油を入れるので、基本的に食べ物は脂っこいものが多いです。
■略歴
平成16年3月に修徳高等学校を、平成20年3月に京都産業大学を卒業。大学卒業後、修徳中学校・高等学校柔道部外部コーチ
■参加動機
大学卒業後、就職活動が上手くいかなかった時に母校の柔道部監督に協力隊での海外指導を勧められ、私も柔道の指導者になりたいという思いが強かったので参加しました。
■配属先
2011年4月~2012年3月 チリキ自治大学
2012年4月~現在 パナマ大学
■パナマの第一印象
まず空港に着いて蒸し暑かったことを覚えています。首都には高層ビル、ショッピングモール、レストラン等が多くあり、とても発展途上国とは思えませんでした。しかし、首都から少し離れたところに行けば、別の国に来たかのように発展していない地域が多く、格差の激しい国という印象もありました。
■パナマの柔道状況
人気は非常に低く、競技人口も少ないです。空手、テコンドーなどの打撃系の競技に人気があります。レベルも世界的に見れば低く、知識が少ないです。技の特徴として、投技では捨身技、片手で技を掛ける、巻込技の多用があげられます。固技は柔術を習っている人が多いため関節技、絞技が多いです。近年の国際大会では2010年の東京世界選手権に3人、2011年のパリ世界選手権に1人出場しています。世界選手権、五輪といった大舞台に立てる選手が少ないのは、選手の実力もそうですが、パナマ柔道に関わる組織間の連携が上手くいっていないため、国内大会で勝利しても代表に選ばれず、上につながる試合に参加できないからです。このことが原因で違うスポーツを選び、柔道から離れてしまう傾向が見受けられます。
■カルチャーショック
〈柔道〉
試合前しか練習に来ない、時間を守らない、無断欠席、畳に土足で上がるといった日本では考えられないことが多くあり、柔道をする以前の礼儀作法ができていないことにショックを受けました。指導者たちは今まで何を教えてきたのだろうと思いました。
〈柔道以外〉
私は海外に出たことがなかったので、日本との文化の違いに驚かされる日々が続きました。その中でも一番の驚きは食生活でした。子どもがご飯を食べたくないと言うと親はそれを素直に受け入れ、お菓子類と炭酸飲料だけ与え、子どもは喜んでそれだけしか食べません。このような家族が多いため、子どもの嫌いな食べ物は栄養のあるものでも食べさせようとしません。日本なら親が子どもの健康を気遣い、嫌いなものでも工夫した料理を作り、どうにか食べてもらおうとするのでしょうが、パナマでは親が工夫して与えるのではなく、自分が食べたいものしか作らないし、子どもが嫌といえば次から与えることはしません。その結果、栄養不足で体調を崩す子どもが多く、もっと健康に気遣った料理を出すべきだと思いました。
■現在の活動
1年間チリキ県にあるチリキ自治大学で子どもから大人まで幅広い年齢層を教えていましたが、今年の4月から首都のパナマ大学で大学生・パナマ代表チームを主に指導しています。パナマ大学での活動以外にも土、日の休日を使って市内の体育館で活動している柔道クラブで指導しています。
■一番嬉しかったこと
昨年11月に国内大会があり、チリキ柔道クラブも参加しました。その時の試合でのことです。他のチームからは受身や技の掛け方が雑で怪我をする選手が多数出たのですが、チリキ柔道クラブからは1人も怪我人が出ませんでした。着任当時から受身、基本動作を口うるさく教えた成果が少しずつ出てきたのだと思えて、嬉しかったです。
■一番辛かったこと
柔道の文化が違うのは最初から分かっていましたが、練習に対する考え方が違い過ぎて辛いことが多かったです。中でも、練習中に指導者、生徒から「まだ練習終わらないの?」と聞かれた時は本当に辛かったです。僅か2時間程度の練習に、集中力が持たずに周りで話し込む人が多くなっていました。それなのに生徒は「試合で勝ちたい」と言い、指導者は「もっと技を教えてくれ」と言ったり、矛盾しすぎていると思いました。柔道に対する姿勢というのが全く感じられず、着任当時からパナマの文化を尊重しながらそれを改善、指導していくのは本当に大変でした。
■今後の目標
パナマに来てから自分の考えが変わり、今後もいろいろなことに挑戦したいと思っています。具体的に何をするかは模索中ですが、これからもずっと柔道に携わっていきたいです。
■最後に
現在、派遣されてから1年3ヵ月が過ぎました。毎日柔道することができ、感謝の気持ちで一杯です。私に柔道を教えてくれた指導者の方々をはじめ、柔道の仲間、協力隊の仲間、家族、私が今ここで柔道をしていられるのは皆様のお陰だと思っています。これからもお世話になると思いますが、よろしくお願いします。
そして、私自身まだまだ足りない部分が多々ありますが、パナマ柔道発展のために残りの日々も感謝の気持ちを持って全力で活動していきます。
(平成22年度4次隊)
■帰国後、現在の小林さん
帰国後は全日本柔道連盟に就職し、現在競技部強化課で働いています。
小学生の時になんとなく始めた柔道、弱くて試合で勝つこともほとんどなかったけれど、好きでずっと続けてきた柔道に関わる事ができ、本当に感謝しています。青年海外協力隊に参加して、様々な経験をし、多くの困難がありましたが、無事任期を終え、成長することができたと思います。初めての海外生活で不安ばかりでしたが、2年間を必死に頑張れたのも、協力隊の仲間に支えてもらったからです。
今後も、日々感謝の気持ちを忘れずに、柔道界のために少しでも貢献し、恩返しをしたいです。そして、いつの日か、また海外で柔道の普及活動をしたいなと思っています。
2年間の大きな経験を活かすために、夢、目標を持って、一歩ずつ進んでいきます。
最後にプチ報告です。今年1月28日から30日までの3日間で国際柔道連盟 審判・コーチセミナー2016が講道館で行われ、パナマ大学での同僚であるブラウリオ先生に再会することが出来ました。まさか、日本で再会できるとは思っていなかったので、本当に嬉しかったです。帰国してから、ほぼ使うことがなく忘れかけのスペイン語ですが、少しでも話すことができて良かったです。
また、一緒に柔道したい!!
※小林さんの記事はJICAHPにも掲載されております。
この記事は、講道館発行の機関誌『柔道』に掲載された記事を加筆修正再編集したものです。
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