HOME > ニュース > 青年海外協力隊奮闘記 vol.6 -ヨルダン・ハシミテ王国-

青年海外協力隊奮闘記 vol.6 -ヨルダン・ハシミテ王国-

ヨルダン・ハシミテ王国

安部 勇次

初出 『柔道』平成24年4月号

 

P3214942.JPG

 

■ヨルダン・ハシミテ王国について

 ヨルダンの面積は、日本の約4分の1で人口が約634万人です。人口の約7割がパレスチナからの避難民で国土の8割以上が砂漠です。夏は気温が高く雨が全く降らないため砂漠が広がりますが、冬には気温が下がり首都アンマンから北部は雨が多く降るため緑色の草木が時折見られます。民族はイスラム教徒が多く(イスラム教でも宗派がありスンニー派が92%と最も多い)、キリスト教徒は6%と少ないようです。

 

■略歴

福島県立好間高等学校出身

平成20年3月、杏文学園 東京柔道整復専門学校卒業

東京柔道整復専門学校付属杏文接骨院

ワイズケア接骨院

 

■参加の動機

 東京柔道整復専門学校の学生の時から海外でトレーナーの仕事に憧れていました。その理由は、私の通っていた学校のOBがアメリカで7年間米国柔道の医療トレーナーとして活躍していたからです。しかし、私が卒業する頃には就業ビザや金銭的な問題などが出てきて日本に引き上げざるを得ない状況になってしまったのです。そして、帰国したOBと話した結果、JICAの柔道指導員で派遣された場合、柔道整復師の技能を有効に活用出来るのではないかという結論に至ったのが、参加の動機です。

 

■配属先

 ヨルダン柔道連盟

 

P1110010.JPG

 

■ヨルダンの第一印象

 贅沢な食材などは日本並みに高いですが、野菜や果物は安いです。最近ヨルダンの物価が少しずつ上がっているように感じます。イラクから富裕層が大量に流入しており、アンマン近郊では建設ラッシュが続いているのも理由の一つです。

 

■柔道の状況

 ヨルダンで一番人気のあるスポーツはテコンドーです。それに比べて柔道の認知度は残念ながら低いです。ヨルダン全体から見ても生徒数がだいたい300人ほどで、道場数は約15ヵ所ぐらいです。そして、ヨルダンで行われる大会も年に2、3回ほどで生徒たちにとって目標とする大会が少ないのが現状です。代表選手はトレーニングコーチを付けて力を入れていますが、指導者同士の価値観の違いからか上手く練習メニューが立てられていないようでした。2011年11、12月にアラブで行われた国際大会では2大会とも全階級でメダルが取れず、代表選手を全員解雇するというハプニングが起きました。

 

■カルチャーショック

〈柔道〉

 私が指導、練習している場所では空手やテコンドーの生徒も練習しています。空手は日本の武道なので裸足で練習していますが、テコンドーは靴を履いて練習します。そのテコンドーの生徒が土足で畳の上を走り回ったり、普通に歩いたりしていることに対して怒りを覚えました。また柔道やテコンドーの指導者がいるにもかかわらず、誰もそれを注意しないことに対しても怒りを覚えました。それからは柔道のヘッドコーチのタウフィーク先生と話し合いをし、少しずつ改善策を打ち出しています。

 

〈柔道以外〉

 現地人と約束をすると必ずインシャアッラー(神が望むなら、または先のことは神しか分からない)と言います。現地人は日本のように時間で行動しないため基本的に行動はゆっくりです。日本人の考えではすぐやればいいことでも、現地人はインシャアッラーと言い紅茶を飲みます。その考え方に慣れるのにかなり時間がかかりました。

 

■活動状況

 シリアからの任地変更があったため任期が半年と限られていました。その中でちょうど全国大会が行われる1月と重なっていたので、1つの場所に集中しようと決め毎日夕方から練習していました。指導対象は中学生から代表選手までです。大会が終わってからは練習が週3、4回となり、練習日以外にヘッドコーチのタウフィーク先生と巡回指導に行っています。

 

 

■1番嬉しかったこと

 1月の全国大会は代表選手を選ぶためにも大事な大会でした。大会では救護班を担当しテーピングや選手たちのケアを行い、日本の伝統医療、柔道整復師をアピールできました。2日間を通して約45人の選手たちのケアが出来ました。

 

IMG_0352.JPG 

 

■1番辛かったこと

 先に述べたように、私は1年弱シリアで活動していました。活動していた町はハマと言うイスラム信仰の強い場所でした。初心者を対象に練習プログラムを組み立てても、参加者が日々入れ替わるため先に進めない状況が数ヵ月も続きました。そこで、「毎日練習に参加する」という当り前な約束を生徒たちとしました。それからはみんな毎日道場に通うようになり、不思議とお互い切磋琢磨し良い雰囲気で1年という月日が流れました。そして、昨年2月にシリア国内の柔道大会が行われました。みんな初めての試合ということもあり思うような試合運びが出来なかったのですが、1人だけ81kg級で三位に入りました。入賞してさらなる励みになったのですが、3月中旬からシリア国内でデモが発生し思うような活動が出来なくなっていきました。

 それから、日本に一時帰国し再度、中東のヨルダンへ派遣されることになりました。ヨルダンからシリアの生徒に連絡を取ると、デモが発生してから練習は出来ていないとのことでした。自分が活動していた場所は、政治犯の収容所として使われていることを生徒から聞かされました。シリアに近い場所にいるのに何もできない自分に、とても残念な気持ちになりました。

 

■今後の目標

 鍼灸師の資格を取り治療の幅を広げたいと思います。

 

■最後に

 柔道を通してたくさんの方と出会えました。同じ時間を共有し同じ考えを持つことで自分自身大きく成長できたと思います。日本では勝つことに対して必死でしたが、指導者という立場に立って改めて柔道の難しさを知りました。日本で柔道をしている生徒、海外で柔道をしている生徒、考えていることはみな同じ感じでした。そんな選手たちの要望に応え基礎となることを一生懸命教え、それを基に生徒たちが競い合い仲間意識が出て絆が深まりそんな良い環境で活動出来たことを、とても嬉しく思います。嘉納師範の教えである「精力善用」「自他共栄」は海外で柔道していても感じました。そこからより一層、柔道は奥が深いと改めて実感しました。海外という素晴らしい舞台を与えてくださったJICA、そしてサポートしてくださった講道館の皆さま、私の無理なお願いを真剣に聞いてくださった学校の皆さま、何よりもここまで育ててくれた両親に、この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

(平成21年4次隊)

 

■帰国後、現在の安部さん

 

・今年の3月に鍼灸専門学校を卒業しました。その後、東京柔道整復専門学校で非常勤講師をしながら在宅医療の仕事をしています。

・今後の目標は、2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったので、私がお世話になったヨルダン国柔道チームを東京オリンピックに出場出来るようにサポートする事です。

・その第1弾として、毎年開催されるグランドスラム東京にヨルダン国を招致し選手の実績を作った上で東京オリンピック・パラリンピックに繋げて行きたいです。

 

この記事は、講道館発行の機関誌『柔道』に掲載された記事を加筆修正再編集したものです。

最新記事

月別アーカイブ