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青年海外協力隊奮闘記 vol.4 -ガボン共和国-

ガボン共和国

矢部哲也

 

インターナショナルスクールでの柔道講習.JPG

 初出 『柔道』平成24年5月号

 

■ガボンについての基礎知識

 ガボンの首都はリーブルビルといい、奴隷解放された地としてフランス語で自由の町という意味で名づけられました。面積はおよそ日本の本州ほど、人口は約150万人であり人口密度は約6人?平方キロメートル というのどかな国です。赤道直下に位置し、国土の約80%がジャングルに覆われています。

 年平均湿度は約80%もあり、1年を通して蒸し暑く感じます。言語はフランス語。宗教は国民の約75%がキリスト教。

 主な資源は石油、マンガン、木材であり、これらが豊富に採れることからアフリカ内でも比較的裕福な国であると言えます。

 

■略歴

 平成16年3月に群馬県立前橋東高等学校を卒業、山梨大学に進学。

 その後、同大学院に進学し平成22年3月に修了。

 

■参加の動機

 大学時代に自分で稽古内容を考えたり、授業の一環で子どもへの指導をしたことで、柔道について考える時間が多くありました。柔道の奥深さや面白さを感じていく中で、柔道を続けたいという気持ちが強くなっていきました。さらに、高校、大学と海外遠征を行った経験から海外での生活にも興味がありました。

 大学卒業後の進路で悩んでいた時に、大学の小山勝弘先生から青年海外協力隊の話を聞き、自分のやりたいことができると思い受験しました。

 

■配属先

 配属先はガボン柔道・柔術連盟で、ナショナルチームへの指導、ガボン国内にある12柔道クラブの巡回指導を行っています。

 

ガボン代表チームへの指導.JPG

ガボン代表チームへの指導

 

■ガボンの第一印象

 飛行機から降りると身体にまとわりつくような蒸し暑さを感じました。首都は高いビルなどもあり発展しているなと思いましたが、一歩首都から離れるとジャングルが続く風景に、野生動物や病気などの恐怖を感じました。

■柔道の状況

 ガボン国内のスポーツの中で武道(柔道、空手、テコンドーなど)は国際大会でも良い成績を収めているため人気があります。柔道の知名度は空手やテコンドーには劣りますが低くはなく、私が柔道をしていることを話すと「柔道を始めてみたい」と言ってくれる人が多く、国民の関心も高いです。

 柔道の競技人口は大人が約350人、子どもが約100人で、選手層は軽量級に集中しています。日頃の稽古はフランス柔道をモデルに計画されています。1990年代からオリンピックに男女1名ずつが出場していますが、いずれも序盤で敗退しているのが現状です。

 ガボン柔道・柔術連盟の会長がアフリカ柔道連盟の総務、副会長が国際審判ライセンスを持ち各国で審判をしていることから、ガボン柔道の組織作りや大会運営などはスムーズに行われていると思います。

 

■カルチャーショック

 

〈柔道〉

 柔道の精神面を大切にしており、試合後に悔しさから怒りを露わにする選手や私生活で柔道精神に反する行為をしている選手には厳しく指導している点はとても感心しました。

 しかし、何かと理由をつけて稽古を休む選手や子どものように駄々をこねて真剣に稽古に取り組まない選手が多いことも現実で、がっかりさせられたことも多々ありました。また、稽古で乱取を多くやりたがらない点も疑問に感じました。

 

〈柔道以外〉

 基本的に明るい性格で初対面でも親切にしてくれます。話の中で冗談を良く言い、日頃から楽しいことばかり考えているのかなと感じます。時間や約束を守らないことが多く、もっともそうな理由をつけて、約束を破ったことを謝らないことに初めの頃は腹が立っていました。

 また、お金をせびられることやアジア人だとからかわれることも多くあります。その他、ガボン人に何か質問をすると自信満々に答えてくれますが、正確な情報は少なく予定などを立てられず困ったこともありました。

 

■現地での活動

 ナショナルチームの強化練習は、年6回ほどある国際大会の前、約1ヵ月間行われます。私は主に技術スタッフとして参加しています。

 さらにナショナルチームの稽古がない時期は国内にある12柔道クラブへの巡回指導を行っています。その他、2‐3ヵ月と期間を決めて、指導者や選手を対象に立技や固技の技術講習会を開催したり、ガボンの柔道人口が減少している問題を知り、学校や施設において柔道のデモンストレーションを実施し、柔道の知名度の向上および柔道人口の増加を図ったりしております。

 

学校での柔道講習1.JPG  学校での柔道講習2.JPG

                学校での柔道修行

 

■1番嬉しかったこと

 大会前の稽古で教えたことを生徒が試合の中で実践でき、格上の相手に勝利を収められたこと。さらにその生徒が試合後に私のところへ来て、先生から教わった技術のおかげで勝つことができたと言ってくれたことが一番嬉しい経験でした。

 この他に、町で出会った子どもに柔道について説明し柔道クラブも紹介すると、後日、実際に柔道を始めてくれました。その子どもの友達などもどんどん集まり、20名以上の新入生が入りました。その子どもたちは休まず練習に来て、私に柔道は楽しいと言ってくれたことも嬉しい出来事でした。

■1番辛かったこと

 急に何人かの指導者たちに冷たい態度を取られ、輪に入れてもらえずに疎外感を感じたことがありました。後日分かったのですが、ガボンでは妬みのような精神も強く、一部の指導者と仲良くし過ぎていたことが原因でした。柔道連盟の中でも派閥があり、複雑な関係をあおってしまった状況でした。

 今では冷たくされた指導者の方々とも仲良くしていますが、辛い時期もありました。

 他に、代表に選ばれたくて一生懸命に稽古をしていた選手がおり、私もその熱意を感じていました。しかし、指導者の間ではこの選手は柔道精神に反するとして、決して代表に選ぶことはありませんでした。

 何度も選考について提案したのですが、変わることはありませんでした。この状況を見ていてとても辛く感じました。

 

昇段審査前のウォーミングアップ.JPG  精神病院にて柔道講習.JPG

昇段審査前のウォーミングアップ        精神病院での柔道講習

 

■今後の目標

 ナショナルチームの練習計画の作成や様々なイベントの企画を経験したことが、とても楽しく興味深くもありました。日本に帰国後は教員を目指し柔道指導に携われたらと思っています。さらに海外の柔道も好きなので、柔道を通して海外ともつながれていられたら、と思っております。

 

■最後に

 柔道を教える中で、毎日は稽古に来ない選手や稽古中も休む選手を多く見かけます。強くなるために重要なことは、技術向上などの前に選手自身が柔道を学びたい、強くなりたいと思うことが大切だと思います。私自身はどのようにすれば選手の気持ちを変えることができるのか、考えながら指導しなければならないと考えています。今後、ガボン柔道が同じ目標に向かう仲間の集団として、お互いが切磋琢磨できるような雰囲気になってほしいと期待しています。

 言葉も文化も生活習慣も異なる国で学ぶことは数多くありました。また、柔道を通して大切な仲間もたくさんできました。ガボンの柔道家は柔道に携わる者すべてが家族だと言ってくれます。このような状況で柔道ができたことを心から嬉しく思っています。このような経験をさせていただいたJICA関係者の皆様、より良い活動のために日本から支援していただいた講道館の先生方、その他多くの方々に感謝申し上げます。

(平成22年1次隊)

 

大会後のセレモニー.JPG

 

■帰国後、現在の矢部さん

 

 現在、群馬県立尾瀬高校にて保健体育教員として勤務しながら、この地域の柔道を盛り上げたいと、中学校、高校、道場にて稽古を行っております。

 

この記事は、講道館発行の機関誌『柔道』に掲載された記事を加筆修正再編集したものです。

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