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青年海外協力隊奮闘記 vol.2 -インド共和国-

インド共和国

井上大智

 

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初出『柔道』平成23年9月号

■インドについての基礎知識

 インドの人口は約11億2千万人、日本の人口の約10倍です。首都のニューデリーの人口が約1億4千万人で日本の人口以上というのが驚きです。

 気候は東西南北で様々ですが、ニューデリーには夏・雨期・冬の3つの季節があります。ちなみに夏の酷暑期(4月6月)には最高気温が48度まで上がり、冬(12月1月)には最低気温3度まで下がります。夏は死ぬほど暑く、私は1日平均5リットルのミネラルウォーターを飲んでいました。

 

■略歴

 福岡県立朝倉高等学校卒業

 平成21年3月広島大学教育学部卒業

 

■参加の動機

 進路について悩んでいた大学3年の冬に協力隊のことを友人より聞き、海外での柔道指導に対して興味を持ち始めたのがきっかけです。小学校から続けている好きな柔道に、もっと関わっていたいとも強く思っていましたので、この話にはすぐに夢中になりました。また私は子どもが大好きで、自分なら世界の子どもたちに柔道の楽しさ・素晴らしさを伝えられる!という根拠のない自信もありました。

 大学では教育学部の家庭科を専攻し、将来は家庭科の教師になることが夢で、この経験はきっと自分の糧になると確信し、協力隊への参加を決意しました。

 

■配属先

 インド柔道連盟

 

■インドの第一印象

 まず何よりも、暑かったです。

 赴任時期がちょうど酷暑期に当たり、とにかくこの暑さに耐えることで最初は精一杯でした。また首都の中心部には人とモノが溢れ返っており、さらに野良犬・野良牛・野良豚・野良山羊など。道路は常に渋滞で、クラクションは鳴り止みません。何とも騒がしい国だなと思いました。混沌という言葉がぴたりと当てはまります。

 

■インドの柔道の状況

 インドの競技人口は約6千人、黒帯保持者が約750人です(2010年時点)。インドの総人口と比較すると、まだまだ人気があるとは言えません。

 インドでは柔道以外にレスリング・ボクシング・空手・テコンドーが人気で、特にレスリングでは世界選手権でも優勝するような選手を輩出しています。南アジア大会では負けなしのインドですが、アジア大会になると、1、2回戦で姿を消してしまいます。しかし、女子柔道はここ最近力をつけており、世界大会で銅メダルを獲得する選手も現れました。講道館への柔道留学者も出てきています。

 また特記事項としては、スタミナドリンクのCMに空手が元々起用されていましたが、それが柔道に変わり、これから人気が出てくるのではと大変期待しています。

 

■カルチャーショック

〈柔道〉

 一番の驚きは多くの指導者が柔道衣を着ずに指導を行うことです。私の同僚も例外ではなく、ジャージ姿で練習場に遅れて来て、椅子にふんぞり返っているというのが常です。この光景はとてもショックでした。

 また他には、力に頼った柔道のせいで、生徒の打込の形はめちゃくちゃでした。「崩し」という言葉は知っていてもそれを力で施すので、理にかなった柔道とはかけ離れたものを目の当たりにしました。それと同時に、力は強いこの生徒たちは基礎基本の指導で十分に伸びる、という目指すべき方向も見えてきました。

 

〈柔道以外〉

 インドではパーティが頻繁に開催されます。私も誕生日会、結婚式とよく招待されました。パーティのメインはなんと言ってもダンスです。そこでの「さあ、どうぞ!先生踊ってください!」と言われ、ダンスフロアーのど真ん中に押し出されるというむちゃぶりには何度も顔を歪めたものです。もちろん私には踊る以外、道はないのですが...。

 

■現在の活動

 私はインド柔道連盟から西デリーの小さな町道場(S・D・SPORTS)に派遣されています。地域のスポーツ少年団といった位置づけで、日曜・火曜日を除く週に5日、夜の7時から9時まで小中学生約30名に対して柔道指導を行っています。

 指導内容の主は柔道の基本で、自分自身で掲げた目標は「けがをしない身体作り」と「一本を取れる技の習得」です。器械体操や補強運動を多めに取り入れ、身体の柔軟性や体幹の強さを鍛えていきました。

 赴任当初は前転・後転からの指導となりましたが、最後には7歳の女の子でも側転が出来るまでに成長しました。「一本」を取れる技の習得のために、とにかく打込を行わせました。徐々に動きながら相手を投げたり、足技から得意技に連絡したりと難易度を上げて子どもたちを鍛えていきました。教え子の技を受ける度に、技の力強さやタイミングの良さから成長を感じることが出来、それが私にとって何よりの楽しみです。

 また不定期で「柔道キャンプ」という2?3週間の出張指導も行っています。場所はデリー州からちょっと北に行ったハリヤナ州という所です。そこでは、全インド大学柔道選手権にて総合優勝の大学で、小学生から大学生まで約100名の子どもたちに指導を行っています。

 

■一番嬉しかったこと

 教え子が全国大会で優勝した瞬間は、本当に嬉しかったです。その決勝での勝ち方が今まで練習してきた成果を発揮出来たものであったので、こと更嬉しかったです。この優勝した子は階級の中では小さく、大きい相手と戦う際の組み手の稽古を一生懸命積んできました。

 私自身も身長が小さく、今まで大きい相手と戦ってきて何度も投げられ悔しい思いをしてきました。悔しい思いをした経験がここで実を結んだことは、あの悔しさも無駄ではなかったと、私の今までの柔道に誇りを持つことが出来ました。

 

■一番辛かったこと

 乱取中に生徒の足がマットとマットの隙間に引っ掛かり、足を挫いてしまったことがありました。

 私はマットがずれて隙間が空いていることを分かっていながらも、乱取を止めてマットを直させることを考えませんでした。結果その生徒はけがのため全国大会をかけたデリー予選に出場することが出来なくなり、厳しい練習を積んできたのにそれをふいにしてしまいました。

 マットの隙間から先の危険を予知することが出来なかった自分を本当に不甲斐なく思います。

 

■今後の目標

 ・国体出場

 ・全日本柔道形競技大会

 ・生涯現役

 

■さいごに

 小さい頃からずっと柔道一筋でやってきて、中学・高校・大学と多くの先生方から指導を受けてきました。先生方からの指導に加え、今まで一緒に練習を積んできた仲間、先輩、後輩がいて今の海外で柔道を指導している自分がいると思います。特に、広島大学の出口達也監督から大学4年間で学んだことは、指導の際に大変参考にさせて頂きました。

 これからは私が子どもたちを指導してゆく番です。青年海外協力隊として海外で2年間の柔道指導を行った経験・自信を持って教員の道へと進んでゆきたいと思います。またこの2年間で、改めて柔道の面白さを実感しました。

 これからも好きな柔道をずっと続けてゆきます。

(平成21年度1次隊)

 

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■帰国後、現在の井上さん

現在、私立広島工業大学高校にて家庭科教員として勤務しています。

部活動では柔道部監督として、日々生徒と共に汗を流しています。

 

この記事は、講道館発行の機関誌『柔道』に掲載された記事を加筆修正再編集したものです。

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